年末進行で死にかけてたら、恋の終わりに祝福された話【後編】
12/31。
ヘルプセンターはとっくに年末の休暇に突入していた。
▶システム安定稼働。
▶強度の負荷は見られず。
▶各ユーザー、ログイン状況問題なし。
ユーザーによる小説の投稿も問題なし。長編部門、短編部門あわせてのエントリー数も20000作品を超えた。これそのものは喜ばしいことだ。サーバーが重くなったことが一瞬あったが、落ちるまでには至らず。これもチームの努力の証だと思う。
後は不正評価者のモニタリング。これは実際、運営元である廉河書店がどう判断するか。年始でモニタリングデータを見てから。
評価は読者選考に影響するため、当然と言えば当然だが。サイトに入会したばかりのユーザーはSNSの「いいね」感覚でレビューを投稿したりする。読んでないのに評価。それがまさか、アカウント
システムとともに小説投稿サイトは肥大化している。でも、肥えたシステムをシェイプアップするのは至難の業なのだ。
くぴっ、とブラックコーヒーを飲む。
別にここにいる必要もない。
ただ、居場所がない。
家に帰ったら、真奈実のことを思い出してしまう。何かに没頭していた少しだけ気が楽で。
そんなことなら、とっとと告白して玉砕しておけば良かった。なんて俺って意気地なしなんだろうって思う。
二年参りして、帰ろうか。そう思った、瞬間だった。
▶システム安定稼働。
▶強度の負荷は見られず。
▶各ユーザー、ログイン状況問題なし。
▶管理制御室に入室許可を求められています。
▶管理者権限があるため、入室を許可します。
▶管理者、Manami Awayaの入室を許可しました。
俺は目を丸くする。それは情報部だ。セキュリティーカードを所持しているから入室は可能だ。でも、あいつは今日、例の彼氏と――。
「……見ぃつけた」
息は絶え絶え。
走り回ったのか、髪は乱れ。恨めしそうな目で、真奈実が俺を睨んできた。
■■■
「なに、やってるの?」
「なにって、仕事。
あえて名字呼びする。その自分の声で、ズキリと胸が痛む。
今日、絶対に気持ちを伝える。真奈実はそう女子達と意気込んでいた。それなら、彼氏のもとに向かえば良いじゃないか。なんで俺の所に来たんだよ。それこそ、意味不明だ。
「あんたを探していたからに決まってるでしょ!」
「探す意味が分からないんだけど?」
「はぁ?」
眉間に皺を寄せる。これ、明らかに怒っていらっしゃる。でも、淡谷に怒られる意味が全然分からない。
「イケメンの彼氏さんが待っているんだろ。クリスマス、一緒にいられなかった分、そいつのところに行ってやれって」
「意味分からない。。あんた以外に仲良くする人なんて、私――」
思い至ったらしい。真奈実が大きく目を見開くのが見えた。
「イケメンで、仕事もできて、部長にも買われているんだろう、そいつ。すげぇじゃん。人の嫌がる仕事までやるなんて、聖人かよ。そんなヤツがうちの会社にいたんだな。今度、俺に紹介して――」
「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!」
真奈実の怒号がシステムルームに響く。デスクの上に散乱していた、ファイルもビジネスフォンも真奈実の手で吹き飛ばされた。
「聞かれていたなんて、思ってもいなかったけど。自覚がないのも腹が立つけど。私が他の男にほいほいついていく女に見える?! 全部、拓人のことだよ。私が大好きなのは拓人! 拓人のことが好きなの! お前が好きだよ! 拓人のバカヤロー! 拓人が大好きなの!」
「……へ?」
耳を疑った。
■■■
『聞かれていたなんて、思ってもいなかったけど。自覚がないのも腹が立つけど。私が他の男にほいほいついていく女に見える?! 全部、拓人のことだよ。私が大好きなのは拓人! 拓人のことが好きなの! お前が好きだよ! 拓人のバカヤロー! 拓人が大好きなの!』
■■■
「おい、今のって……」
館内放送に流れたことを、真奈実は気付いていない。本日、12/31。実は他の部署では、お仕事をしている人がまだいるのだ。そして、社長も。こ、これ。なんの罰ゲームなの?
「拓人、返事は?」
「真奈実、あの。ちょっと落ち着こう? 場所を変えて、改めて。そのシチュエーションって大事だって思うんだけど――」
「女子にここまで言わせて、逃げるの?」
「だから……」
たらたら、冷や汗が流れる。こんなタイミングの告白なんて想定外だ。しかも、他の社員が聞いている可能性大。さらに、ここからの一問一答が全部、他の社員に聞いてもらえるという年末公開生放送特番。全社員に告ぐ。今から、即、退社してくれませんか?
「真奈実。あれって、俺のこと? でも全然、実際のイメージと合ってないというか……」
「無自覚かっ。そこんとこ含めてお話合いする必要あるよね。それとも何? 私以外の女の子に『格好良い』って言われたい? 今、私にちゃんと返事をくれない時点で、拓人は充分、クソヤローだけど? 勝手に誤解して私を避けて。嫌われたって思ったじゃん。バカ、バカ、拓人のバカ。本当に――」
真奈実が嗚咽で言葉にならない。この状況、本当に俺がクソヤローだ。
「真奈実、あのさ。俺は。俺も、お前のことが――」
■■■
俺達が、管理制御室から出た瞬間、まさかの社員総出で、クラッカーを鳴らされ祝われた。そんな皆さんに対して「お世話になりました。来年もよろしくお願いします」としか言えなかった俺も相当にクソヤローだけど。改めて「告白を朝礼で」とか言い出す社長。あんたが一番、クソヤローだよ。
【おしまい】
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作者です。お読みいただき、ありがとうございました。
実はこの作品意外にもカクヨムコン11に参加しています。
どれも面白いと思うので(自画自賛)もしお時間あれば、お読みいただけたら幸いです。
〜尾岡のカクヨムコン11エントリー作品〜
【カクヨムコン11連載版】この夏、僕たちは「こい」という字をまだ知らない
https://kakuyomu.jp/works/822139840468167824
カクヨムコンテスト11【短編】パパと暖めた愛の卵が君達です!
https://kakuyomu.jp/works/822139841892469016
【カクヨムコン11短編】Let's journey into the world unknown ~恋せよ乙女、未知の世界へ歩め ~
https://kakuyomu.jp/works/822139841487981117
【カクヨムコン11短編】夜闇に囁く独奏曲 ~愛し子に名前で呼ばれたい吸血鬼~
https://kakuyomu.jp/works/822139840468906375
【君がいるから呼吸ができる】
https://kakuyomu.jp/works/16816452219719674555
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最後に、年始に社長が拓人君にかけた言葉で締めたいと思います。
「姫始め、どうだった?」
今年もありがとうございました。
そして2026年も、どうぞよろしくお願いします!
【カクヨムコン11短編】年末進行で死にかけてたら、恋の終わりに祝福された話 尾岡れき@猫部 @okazakireo
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