第9話

 地の精霊使い。文字通り、地を操り、地面に存在する全てが手となり足となる。術者の技量によっては土人形に己の人格を乗せることで分身を作ることも出来る。


 人は地に足を着けている以上、彼らから逃れる術はない。


「日柳、お前はどの程度戦えるんだ?」


 青嵐は後ろに庇う來花へ声をかける。彼女は狼狽えながらも、答えた。


「戦えないわ。全くの素人」

「はぁ?」


 返ってきた答えは予想もしていないものだった。事前に聞いていた言葉とは違う。それに彼自身の霊視力で得たものとも異なっている。


 間違いなく日柳來花の実力は、その身に宿す精霊使いの才能はトップクラスだ。洗練されており、長い年月をかけて修行した術者をも凌駕している。


 青嵐が困惑していると、來花は言葉を続けた。


「私自身を護るのは別に大した問題じゃないわ。でも、それだと駄目なの。私を護るだけで

「それって……」


 青嵐は漸く思い違いしていた事実を悟った。確かに來花の抱える才能は規格外だ。洗練もされている。紛うことなき天才少女という称号を与えてもいい。


 しかし、その才能が自衛に特化しているとしたら。


 それは凡才よりもタチが悪い。


 ましてや青嵐のように周囲への影響を考慮せず、敵を始末することを躊躇わない、殺しのブレーキのない人間ではないのだとしたら。


 意思を持たない災い、天災にも匹敵する脅威を秘めているだろう。


『それじゃあ早速依頼に取り掛かってちょうだい────

(あれはそういう意味だったのか)


 依頼を開始する前に來花から告げられた言葉。その意味を理解し、青嵐は思わず内心嘆息した。考えはすぐに纏まった。


「お前はじっとしてろ。いざっていう時以外は力を使うな」

「わ、分かったわ」


 彼がそう忠告すると、來花は緊張の面持ちで頷く。安堵が滲み出ており、戦いへの心構えも未熟であることが窺えた。


(折角の才能が勿体ねえな。宝の持ち腐れってやつか、これが)


 依然として莫大な力が來花の中で鎮座しているのを青嵐は視る。


 あまりにも惜しい、と。彼は素直に思った。


 莫大な時間を費やしたとしても、人の持つ才能は生まれながらにして決まっている。伸び代があったとしても、そこには必ず限界がある。


 限界を突破、だなんて言葉は都合のいい響きだが存在しない。


 現実は残酷であり、非情。力は努力ではなく、生まれ持った才能によって決まってしまう。

 

 その才能の壁を打ち破るには、それだけの覚悟と運、そして代償を支払わなければならない。


 


『ごめんね、青嵐。約束、守れなくて』


 彼の頭の中で声が響く。もう二度と聞くことがない、聞ける可能性も失われた少女のもの。


 青嵐にとっては取り返しのつかない過去。


(……嫌なもんを思い出しちまった)

「青嵐?」


 感情が顔に出ていたのか、來花が慮るような声で青嵐に声をかける。彼女の言葉で彼は自分が戦闘の只中にいることを思い出した。


「何でもないさ。心配しなくていい。ちゃんとお前は護る」

「……ええ、お願い」


 表情を取り繕う青嵐に來花はそれ以上何も言えず、黙り込むしなかった。

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