第7話
足取りに喜びと期待が漏れ出ている來花から腕を引っ張られつつ、青嵐は町中を歩く。何をしているのか、と自分でもよく分からなくなっているが、依頼遂行中だと思い出す。
現実を直視できず、思わず空を仰いでしまう青嵐。
雲一つない快晴。空が青い。お出かけ日和である。
「そういえば貴方のことはなんて呼べばいいのかしら?」
現実逃避していた青嵐に声がかかる。今更ながらの質問だ。何故今までどちらも気にしていなかったのか、謎である。
青嵐は何故か楽しそうにしている來花を見下ろし、数秒ほどの時間をかけて答えた。
「青嵐で構わねえよ」
「そう? けれど、呼び捨ては体裁が悪いわね……なら、青嵐さんと呼ばせてもらうわ」
「……勝手にしてくれ」
疲れた様子の彼を見て、苦笑しながらも喜びの感情が抑えられていない來花。彼女にとっては異性の名前を呼ぶという行為に馴染みがないのかもしれない。
「ええ。許可も貰ったことだし、勝手にさせてもらうわ!」
來花は意気揚々と青嵐の腕を引き、先へと歩いていく。リードに繋がれた犬が飼い主を振り回しているかのような絵面だった。
好奇心が溢れ出しており、止まる気配がない。あちらこちらへと向かっては次の場所へ興味が目まぐるしく移っていく。
(普段、外出とかしねえのかね。ここにあるものはそんなに珍しいもんでもないはずだが)
青嵐はずっと口角が上がりっぱなしな來花を盗み見、内心違和感を覚える。女子高生といえば、こういった人で賑わっているような町で遊ぶのは別におかしな行為ではない。むしろ学友と戯れる場所としては適切とも言える。
しかし、來花の反応はどれも真新しいものを見つけたようで、普段からこういった場所に慣れ親しんでいるとは思えなかった。
(…………嫌な予感がしやがる)
ハンバーガー屋に立ち寄った時はハンバーガーの注文の仕方も包装の外し方も知らず、雑貨屋では何処にでも売っているような雑貨を見て感動していたり、映画館ではスクリーンの中で動く映像を見て目を白黒とさせていたりと世間知らずが過ぎていた。
過保護に育てられた、というよりは家の中だけで世界が完結して隔離されていたかのようだと青嵐は感じた。
そうこうしている間に時間は瞬く間に過ぎ去り、夕暮れ太陽が顔を出す。空は茜色に染まり、夜の支度を整え始めている。
これ以上來花を連れ回していては本格的に警察との逃走劇に備えなくてはならないと危惧し、青嵐は声をかけた。
「今日はもう帰るぞ。俺はホテルに戻る。お前は……」
「私も行くわ。護衛だもの、構わないわよね?」
「……………………ああ」
長い沈黙の後に首肯する。手を出す可能性は微塵もないが、疑惑がかかった時点で人生終了する。それでも護衛対象を放って帰るわけにもいかず、青嵐は肩を落とす。諦めの境地だ。
「んじゃ、帰るぞ」
「そうね……今行くわ」
彼がホテルのある方へ歩き出すと、來花も後を追う。その足の重さには名残惜しさが滲み出していた。青嵐の隣へ並ぼうと彼女が駆け寄る。
しかし、來花が追いつく必要はなかった。彼の足が止まったからだ。
(…………ハァ、そりゃ護衛だもんな。何事もないわけがない)
青嵐は振り返り、即座に來花の手首を掴む。そして、流れるように抱き寄せる。突然の出来事に來花の思考は停止していた。
(え……え……?)
腕の中で借りてきた猫のように大人しくなる彼女に疑問を持ちつつも、青嵐は鋭い眼差しで正面を睨みつける。
像を結ぶ前よりも、影が刻まれるよりも、存在が固定されるよりも。
そこに顕れることは、風の精霊の探査能力を以てすれば容易に予測がついた。來花を庇いつつ、敵意を言葉にして吐く。
未成年の命を狙う相手への怒りはない。そんな高尚な精神を青嵐は持っていない。
ただ純粋に疲れた体に鞭を打とうとする襲撃者への苛立ちが漏れただけだ。
「お出ましか」
直後、無垢な少女を狙う、卑劣な悪意が彼の前に顕現した。
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