第5話

「で、依頼の品はどちらに?」


 相手は年下とはいえ、自身に匹敵する術者。対応を誤れば交戦する可能性もある。青嵐としては無駄な争いは予め避けたかったので、余計な言葉は無しにさっさと依頼を引き受けようとした。


「依頼の品ならここにあるわ」


 しかし、想像に反していた台詞が返ってきたことで青嵐の考えは崩された。來花は自らの胸を触り、彼へと一歩歩み寄る。


 身長差の関係で上目遣いを向ける形となった。ルージュが乗ってなくても、若さで潤いを持っている唇が言葉を紡ぐ。


「私よ」

「は?」

「聞こえなかったかしら。私が依頼の品よ。護衛をしてもらうのは私のこと」


 青嵐は数秒思考に時間を要する。普段の判断力は機能停止してしまっている。完全な異常事態が起きていた。


 しかし、数秒後に復帰し、自身の聴覚障害を疑う。


「聞き間違いか? お前が護衛対象で、依頼の品だと?」

「ええ、そうよ」

「必要か、俺」


 率直な疑問だったが、來花は首を傾げる。彼女にとってはこの依頼は当たり前のようにされて然るべきだと思っていたようだ。


「どうしてそんなことを聞くのかしら? 必要でなければ依頼をしたりしないわよ」

「いや、普通に考えて俺が居なくてもお前ほどの実力なら自分の身は自分で守れるだろ」

「ええ。確かにその通りだわ」

「認めるのか」

「事実だもの」


 あっさりと肯定されて唖然とする青嵐だったが、やはり來花も力強く頷く。別に彼女は自身の実力に対して無自覚というわけではないらしい。むしろ一点の曇りもない自信を抱いてさえいる。


(……こいつが俺に護衛して欲しいっていうのは、ただ護ってほしいってだけじゃないってことか)


 つまり、護衛といっても保護のような意味ではなく、彼女を護ることそのものに意味がある。青嵐はそう捉えた。


(おそらく儀式的なものか。こいつを護っている間に何らかの儀式が完了する。儀式が終わるのは護衛期間か、護衛期間終了後か。そのどちらかだな……問題なのはその儀式が何なのか、だが正直分からん)

「……で、俺は何からお前を護ればいいんだ?」


 色々と考えた上で結論が出ない疑問は後回しにする。訊ねて答えが出る疑問を先に青嵐は解消することにした。


「敵よ」

「敵、ね……」


 來花の答えは簡潔だったが、簡潔故に意図が見えない。


(わざと隠してんのかね。だったら深く聞かないほうがいいな。面倒事に首を突っ込むのは勘弁だ)


 疑問は尽きなかったが、それ以上の追求はやめた。青嵐としては金さえ貰えればいい。仕事に見合った対価があるなら、事情は鑑みない。


 それが彼のこれまで培ってきた経験から学んだ戒めだ。


「分かった。取り敢えず仕事は引き受ける。前金は……」

「三億でいいわ。彼女とも話は済ませてあるわよ」


 青嵐が視線を移すと、仲介人の女がだらしない顔でダブルピースを掲げる。予想通り、交渉は上手く行ったようだ。


「それじゃあ早速依頼に取り掛かってちょうだい────


 青嵐は問答無用で來花に腕を組まれる。あまりにも自然な動きだったせいで反応できなかった。


「ごゆっくりー」


 仲介人の女に見送られながら、彼はそのまま公園を後にするのだった。

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