第2話
『もう依頼を終わらせたのか。流石、現代最強の精霊使いだ』
電話口から聞こえる声に青嵐の手にある携帯電話がみしりと悲鳴を上げた。彼の機嫌に応じ、突風が発生したせいで近くにいた何人かが転倒する。その姿を見て、冷静さを取り戻す青嵐だったが機嫌は未だ底辺を彷徨っている。
「それやめろ」
気怠げながらも苛立った声音なのは、相手の言葉が純粋な褒め言葉ではなく、揶揄いを含んだものだと理解しているからだ。
「俺は自分が現代最強だろうが、そうでなかろうがどうでもいい」
『そう? 実力がある無しは結構重要だと思うけどね。君ほどの凄腕の精霊使いとなるとその辺シビアでしょ』
ただ揶揄っているだけではないらしい。正当な評価を口にしている。そういう意味も持ち合わせているようだ。
青嵐にとってはどちらにせよ、嬉しくない言葉であったが。
「そういう細かいことを気にするのは精霊使いであることに誇りを持ってる真面目な奴だけだ。俺は違う。精霊使いという力があるだけで、そこに誇りも何もない。自分が死なない、敗けないってことさえ分かってれば誰よりも強いとかは心底どうでもいい。それより金だ金。相当依頼人からぼったくったんだろ?」
彼の顔が悪どく歪む。近くを通り過ぎていく通行人が、彼を見た瞬間に道を開けるくらいには人相が悪くなっていた。
とはいえ電話口の女も同じようなもの。むしろ彼よりも悪どい商売をしている。
国家に属する正式な精霊使いであれば法外な報酬を要求されることはないが、彼らはどちらも国からの雇われの身ではなく、フリーの仲介人と精霊使い。
決まった金額はなく、彼らの言い値を支払うのが当然となっている。勿論、違法なので通報すれば逮捕待った無しだが、その場合依頼人もフリーの仲介人と精霊使いを利用した違法行為を咎められることになる。
殺し屋本人だけでなく、殺しを依頼した者も法に裁かれることになるのと同じ道理だ。
故に今まで二人の悪どい商売が表沙汰になったことはない。
清廉潔白を常とする精霊使いの在り方としては邪道を突き進んでいるので、その手の業界では青嵐を忌み嫌う者は後を絶たないが。
『まぁねー。二人で分けても一千万円ずつだ。君のお陰でボロい商売だよ』
「だろ? 感謝しろよ」
仲介人の女が機嫌良さそうに褒め称えるのを、彼も満足げに受け入れる。今回の仕事は特に危険もなく、面倒なだけで楽に終わった。金額に見合った仕事ができたかといえば、依頼人の前で内容を語れるものでもない。
過去にやった仕事と比べても、大した苦労をせずに済んだ方だろう。
『しかも、新たな依頼が舞い込んできた。金払いもいい。こっちは今回の依頼よりも大仕事だけどいけるかい?』
「金額次第」
即答だった。青嵐にとって依頼は内容よりも金額が大事。楽な仕事であっても報酬が釣り合ってなければ引き受けないし、逆に大仕事であっても莫大な報酬を要求できるのであればやる。
自身の実力に絶対の自信があるからこその傲慢な思考だ。
『前金で一億。成功報酬で二億。私と君と二人で分けても一億五千万円だ』
「やる。依頼人にすぐ伝えろ」
『了解。詳しい依頼内容については後日連絡するよ……ああ、それと────』
電話口で声がにやけるのを青嵐は感じ取り、彼も同じように表情が卑しく緩んだ。
『もうちょい金額を釣り上げられるか、交渉してみよう。もしかしたらもう少し引っ張れるかもしれない』
「それいいな。ぼれるだけぼってやれ」
『ふふ、腕が鳴るね。それじゃあまた』
仲介人の女は電話を切った。青嵐は彼女の交渉術の技量を信頼している。おそらく宣言通り、報酬の額は引き上げられることになるだろう。
青嵐は期待に胸を膨らませつつ、軽い足取りでネオン街へ姿を消すのだった。
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