風の精霊使い
@gjadmw
第1話
「待てコラ、逃げんな」
その表情は凶悪に歪んでおり、悪事を働いていない者であっても全速力で逃げ出してしまいそうなほどに殺気立っている。
彼は現在、鬼ごっこの真っ只中にあった。但し、命を懸けたものであり、遊びではない。尤も命を懸けているのは追われている側であって、追っている側の彼はその限りではないが。
「チッ、逃げ足だけは速いな」
悪態を吐く青嵐。高度が下がってきたので、風を踏み台にし、再度跳躍する。一気に上昇したことで風圧が襲ってくるも、風の精霊の加護もあって青嵐に一切影響は及ばない。
「ちんたら追ってると埒が明かねえ」
すでに追跡相手は数百mの距離を稼いでいた。数秒経つごとに、着実に距離を離されていく。
相手は人外であり、速馬。鬼の血を取り込んだことで、爆発的な脚力を得た妖魔だ。人間の視覚機能ではとっくに捉えられない場所まで逃れているので、青嵐は風の精霊の力を借りて視覚機能を大幅に底上げして正確な位置を観測している。
ここまで距離を引き離され続ければその超常的な視覚ですら捕捉できなくなってしまうが。
「こっから決着つけるか」
青嵐の周囲で風が吹き荒れる。渦を形作り、台風の目の中心に彼を据える。その勢いは止まることなく加速していく。
青嵐の五体は気流に乗せられ、天へと高く押し上げられた。風の精霊の庇護下にあったお陰で衣服が乱れることなく、雲よりも高い位置で浮遊する。
夜明けが近いこともあってか、遠くに太陽が見えた。青嵐にとっては忌々しい物体でしかない。
「チッ、嫌なもんを見ちまったぜ」
彼はそう吐き捨て、妖魔が放つ瘴気の残滓を辿る。射程圏内ギリギリまですでに移動されている。
青嵐は掌を天に掲げた。そこへ集まっていくのは空気。青嵐の意思と精霊の意思が重なり合い、密度を上げ、規模を縮小していく。
圧縮されていく空気の塊は都市一つを容易く吹き飛ばす台風にも匹敵する威力がある。それをバスケットボールサイズから野球ボールサイズにまで留めていく。
掌の上になるサイズにまで小さくなった球状の塊。青嵐はそれを軽い投球フォームで逃走を続ける妖魔に向かって投擲した。
唸りを上げ、飛んでいく球状のそれは周囲の風をも取り込むことで速度を上げる。
音速を超え、光速に達し、空を横断する。
数秒と経たずに妖魔へと炸裂した瞬間、規模が一気に拡大した。
雲を割るほどの風圧が発生し、妖魔の全身を圧縮する。逃れようと必死にもがく妖魔だったが、天災をも凌駕する威力には抗いようもない。
全身を粉々に圧し潰され、分子レベルで瘴気も消し飛ばされていき、再生限界を振り切って原型を保てなくなった妖魔は跡形もなく消滅した。
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