【放課後のたこ焼きと君】11

 夏の暑い日。月曜日。

 平日ではあるけれど夏休みは始まっていて、いつもより、ジャストの店内は混雑していた。子供が元気に、走り回っている。

 清史郎はスマートフォンで時間を確認する。十一時半。もう少し早く着くつもりだったけれど、仕方ない。フードコートへの道を、やや早歩きで進む。

 フードコートは既にかなり混みあっていた。座席を探すことなく、清史郎はたこ焼きのセットを二つ買った。ドリンクは二つともコーラだ。駆け回る子供をかわしつつ、端の方へ歩く。いつもの席に、川口の姿を見つけた。いつも通り、やや背中を丸めて本を読んでいる。

「よう」

 川口が顔を上げる。清史郎はトレーをテーブルに乗せ、川口の向かいに座る。

「また来たの」

「そう。また来た。どうせいると思って。ほら。お前の分も買ってきてやった」

「どうもありがとう」

「うん。バイト代、入ったから」

「初任給?」

「そう」

「それは貴重だね」

「味わって食えよ」

 清史郎は笑った。川口は笑わず、スマートフォンを取り出して、たこ焼きの写真を撮った。

「なんだよ急に」

「初任給の貴重なたこ焼きだから」

 川口は真面目な顔をして答え、それから割りばしで一つずつたこ焼きを裂いた。中から湯気が出ている。

「熱いうちが上手いのになあ」

 そう言って、清史郎はたこ焼きをほおばった。熱い。ソースと青のりと鰹節の匂いが鼻を抜けていく。美味い。

「やっぱり人に焼いてもらうたこ焼きは美味いね」

 清史郎は今、海の家で期間限定のバイトをしている。

 通勤は岸寄駅から三駅。夏休みの観光客を相手にたこ焼きや焼きそば、焼きとうもろこし、それからビールなんかを販売している。

 初めてのアルバイトで緊張していたけれど、最近ではようやく自分も戦力になれた気がしている。

 一応屋根のある場所で働いているのだけれど、今年の夏だけで驚くほど日に焼けた。駅までの自転車通勤も効いているのかもしれない。こんなに自分の肌が黒いのは、生まれて初めてだ。

「なんか、たこ焼き、好物になっちゃったんだよなあ」

 清史郎は笑う。今までより、ずっと上手に笑えるようになった気がする。

 夏休みの間、ひとまず清史郎は真一と千鶴と暮らすことになった。

 清史郎はそれから先も、祖父母と暮らしたいと思っている。田舎乃高校に戻ることも、家に戻ることも、きっともうない。

 最初のうちはかなり未練があったけれど、一か月も過ぎると、もうそれでもいいか、と思っている。真一と千鶴と農作業をすることも、働くことも楽しい。それで今は十分な気もしている。

 誠と舞子はやはり離婚することになるらしい。謙一朗がどうなるか、清史郎は知らない。

 どうなろうと、清史郎に責任はない。

 千鶴も真一もそう言ってくれるから、清史郎もそう考えることにしている。

「だからまた、時々食べに来るわ。ついでに川口にも会えるしな」

「まあ僕は、会いに来てくれとは言ってないけどね」

「だからついで、って言っただろ」

 清史郎は笑った。

 先行きはいまだに不透明で、将来のことは全然分からない。決めなきゃいけないことは、相変わらずたくさんある。悩み事はそれなりに、抱えている。

 だけど今は、それがすごく、楽しい。

「じゃあ僕も、そのうち千鶴さんたちに会いに行くよ。ついでに、坂井にも会うことにする」

 川口は微笑んだ。

「約束だぞ」

 たこ焼きのソースの香りが、清史郎の鼻先をそっとかすめた。

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