第3話 安眠のためなら神殿もリフォームします

「……んん、よく寝た」


 私は大きく伸びをして目を開けた。

 最高の目覚めだ。背中が痛くないし、何より鼻先をくすぐる香ばしい木の香りが心地いい。

 ん?……木?あれ?私、昨日は村の広場の地面で寝てしまったはずなんだけど。


「……ログハウス? 」


 見上げると、そこには立派な梁が渡された木の天井があった。

 私は寝返りを打ち、起き上がる。同時に、睡眠中に無意識に張っていた防音・防寒結界が解除される。

 

ヒュー……。


 途端、板張りの床の隙間から冷たい風が入り込み、じんわりと底冷えが伝わってきた。

 周囲を見回すと、そこはまだ削り出したばかりの瑞々しい白木に囲まれた、広々とした空間だった。しかも、私の枕元には色鮮やかな花や果物が供えられ、香炉からいい匂いの煙まで漂っている。

 まるで、祭壇のど真ん中に供えられた御神体になった気分だ。


「おお! 聖女様がお目覚めになられたぞ!!」


 外から野太い声が響いた。

 ドカドカと足音がして、昨日の村人たちが雪崩れ込んでくる。

 先頭にいるのは、腰の曲がった、しかし眼光だけは鋭いお爺さんだった。


「聖女様! 昨日はこの『オフトゥン村』をお救いいただき、誠にありがとうございました! まさか伝説の『聖女様』が、このような最果ての地に降臨されるとは……!」


「え、あ、はい。どうも」


 ……オフトゥン村?なにその誘惑的な村の名前。じゃなくて…。


「あの、ここって……」


「はい! 聖女様が地面でお休みになられているのを見て、村の木工たちが一晩で総力を挙げて組み上げさせていただきました! 聖女様を崇めるための神殿でございます!」


 一晩でこれを作ったのか。この村、柵はボロボロだったけれど、腕の良い大工だけは揃っているらしい。

 神殿…いや、大事なのは見た目じゃない。そこに何を見出すかだ(?)

 しかし私が寝ている間にこれだけの建造物を建てるなんて、逆に私の防音結界の性能を褒めるべきかもしれない。


「我々のような貧しき村人には、この森で採れる良質な材を組むことしかできませんが……どうぞ、ここを棲家になさってください!」


 村長が誇らしげに胸を張る。

 ……嬉しい。気持ちは、正直めちゃくちゃ嬉しい。


(でも……板の間、硬いなぁ。あと、作りたてだから隙間風がめちゃくちゃ入ってくる……寒い……)


 いくら物理ダメージ無効とはいえ、硬い床で寝るのは精神的な「安眠」には程遠い。高級ホテル並みのホスピタリティを期待した私の「安眠欲」が、このままでは満足できないと叫んでいる。

 私は聖女(元)としての慈愛に満ちた(ように見える)笑顔を浮かべ、村長に言った。


「ありがとうございます。みなさんの真心、魂に響きました。……ですが、このままでは『守り』が不完全です」


「な、なんと!?」


「この辺りは寒さが厳しい土地。このままでは、みなさんがせっかく削ってくれた美しい木材も、霜で傷んでしまうかもしれません。なので――」


 私はスッと手を掲げた。

 もっともらしい理由をつけているが、本音は100%「自分が快適に寝たいから」である。


「ここに、『最強の加護』を付与させていただきます。――『聖域展開』」


 ブォンッ!


 空間が淡く黄金色に発光する。

 私がやったことは単純だ。建物の内側に沿って、ぴったりと多重結界を張り巡らせたのである。

 第一層、【弾力(クッション)結界】。

 床の硬さを完全に消し去り、高反発にして低反発、最高級マットレスの感触に変える。

 第二層、【断熱(エアコン)結界】。

 隙間風をシャットアウトし、内部は常に適温に固定。

 第三層、【空気清浄(クリーン)結界】。

 埃も花粉も、私の許可なく侵入することはできない。


「こ、これは……!?」


 一番初めに驚いたのは、そばに控えていた村長だった。

 彼が恐る恐る床を踏みしめる。


「床が……沈み込む!? まるで雲の上を歩いているようだ!」


「あったかい……! さっきまでの隙間風が嘘のように消えたぞ!」


 一緒に中にいた村人たちが、驚愕してその場にへたり込んでいる。

 外見は素朴な木の建築だが、その内部は、私の魔力によって『人類史上最強の快適空間』へと魔改造されたのだ。


「おおお……なんと慈悲深い! 我々の拙い建物を、聖女様自ら完成させてくださるとは!」


「ありがたや、ありがたや! オフトゥン村に光が差したぞ!」


 村人たちは感涙にむせび泣き、その場に平伏した。

 よし、これでウィンウィンだ。

私は村人たちの好意を無駄にせず、かつ『最強の引きこもり環境』を手に入れた。

 


「では、私はこれより『世界平和のための祈り(二度寝)』を捧げますので、みなさんは下がってください。あ、あと、食事の差し入れは大歓迎です」


 こうして私は、村人公認のもと、この『最強神殿』でのんびり暮らす権利を手に入れたのだった。

オフトゥン村の伝説――『引きこもりの守護神』の誕生である。

 だが、私が平和にまどろんでいるその頃。

 大陸の反対側では、私の「不在」による地獄が幕を開けようとしていた。

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『ぐーたら聖女は硬すぎる!防御力99999で勇者パーティーを追放された私は、辺境に最強要塞を築いて引きこもります。~物理も魔法も騒音も完封して、今日ものんびり昼寝します~』 結城結乃 @fycia

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