第4話

でも、結局その後も働き続けました。

あの飲めない酒を無理くり飲み

震えながら眠った夜を忘れたわけじゃありませんが

厳しいが気のいい親方を慕っていたのもありますし

なによりも給料が良かった。


その後も1年に一度あるかないかのペースで水子は現れました

最初のうちは恐怖し我先にと梯子を駆け上っていましたが、人ってのは段々慣れるもので

恐怖は無くなり、水子が出た日は早く帰れるから出ないかなぁと願ったりもしたもんです。


それから15年ほどたった時です。


私も一人前になり同僚と2人で現場で現場に向かっていました。


その日は1週間ほど続いた雨がやみ

やっと水かさが落ち着いてきて作業が再開できるって日でした。


「今日は急いで終わらせるぞ」


笑顔で同僚が言いました。


「なんでよ、久しぶりの作業や

 慎重にやろうや。」


「そりゃ分かっているけどよ、遅れを取り戻さないと休日出勤になってしまう

 俺デートなんだよ」

 

「そんな事言ってると滑って転んで糞臭いって振られるんだぞ」


なんて軽口を笑顔で言いながら現場に向かいました。


到着し作業を始め昼も過ぎもう少しで終わるってあたりでした。


お・・・

おぎ・・・

おぎゃあ、おぎゃあ


水子がでたんです。


「おいおいまじかよ

 空気読めって」


2人でつぶやきます。


「ほら上がるぞ」


そういいながら私は荷物をまとめながら梯子を上り始めました。


「まてまてもう少しで終わるから。」


同僚は作業を続けていました。


おぎゃあおぎゃあ


水子の声は変わらず聞こえ近づいてきます。


「あきらめろって急がないとまずいぞ」


ライトで同僚を照らしながら説得を続けました。

水子の声は今まで聞いた中でも1番近づいてきてるのが分かります。


おぎぁおぎぁおぎぁ


赤子のような、おじさんのような

何人もの声が配管に反響し増幅していきながら

声がだんだん大きくなります。


「もう少し、もう少し」


「おい、いい加減に・・・」


そのとき同僚の後ろの配管から黒い靄のようなものがはい出るのを

見た気がします。


あっ


声をかける暇もなくその靄が同僚のあしに触れたかと思うと


「ぎゃ~~」


同僚が激しい悲鳴を上げ手で両目を抑えました。


僕は急いで同僚に駆け寄り抱え上げると何とか梯子を

掴ませました


「痛い、目が痛い」


先に上に行く同僚を下から支え上げるようによろよろと梯子をよじ登り

やっと地上に戻りました。


歩道の上で目を抑えうずくまる

同僚に急いで駆け寄り

手をどけ目をのぞき込みました。


暗いんです。

真っ暗

白目がなくなり

黒目だけといっていいのか

とにかく両目が暗いんです。


「ひっ」


「おいどうなってるんだ

 俺は地上にいるのか」


パニックの同僚をなだめながら救急車を呼び

急いで病院に向かいました。


「暗い、痛い」


呻きながら救急治療室に入っていく

同僚を見送り

その後はただ待合室の椅子で

俯きながら震えていました。


頭の中にはあの目がこびりつき離れません

ひたすらに暗く、深い

私はあの暗さを知ってる。そっくりだ。

いつも覗く配管の中に広がる闇そのものでした。



どのくらいたったでしょうか


「おい、おい!」


両肩をつかまれ体を起されました

同僚の知らせをきき駆け付けた親方でした。


「すいませんでした。」


私が小さく呟くと


「なんですぐに上がらんかったぁ!」


今までどんなに怒鳴っても決して手をあげなかった親方に頬を殴られました。


「すいません、すいません」


謝ることしかできませんでした

頬を殴られた痛みも同僚に私に何が起こったのか分からず

ただ泣きながら謝りました。



親方は荒くなった息を整え

肩を優しく叩きながら僕に声をかけた


「すまん、やりすぎた

 お前だけでも無事でよかった

 今日は帰って休め」


 僕は無言で頷くと

 ふらふらと家に帰りました


 

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