第5話 幸せの陰に潜むモノ




今は日本の季節的に言うと春だと思う。


温かくて吹く風が心地いい気候で、村であることから農業や狩猟を営んでおり、作物や森が豊かになるおかげで住民たちも生き生きとしている。


俺の家は主にこの村の狩猟に携わってきた家らしく、父はかなりの腕を持っていると聞く。


だがうちには畑がないので、作物は他の家から買ったり、物々交換で解決する。


「おはようございます!今日も買いに来ました!」

「おうエリオか!」


家が近く、村でもかなりの豪農のダルガさんとはいい関係を築いている。


勿論、その家族とも。


「あっ!エリオだー!」

「ヘレナか、」

「な、なによその反応!」

「別に~?」


ダルガさんの家の一人娘で、俺と同い年のヘレナ。


春の日差しを弾くような明るい色の髪をしていて、動くたびに肩の辺りで揺れる。


大きめの瞳は感情がすぐ顔に出るタイプで、今も俺の反応に不満そうに細められていた。


「そうだエリオ!暇なら遊びましょ?」

「えぇ~、俺は今買い出し中なんだけど」

「そういって前も逃げたでしょ!」


腰に手を当てて睨むその仕草は、怒っているというより拗ねているようで、つい笑いそうになる。


「……わかったよ、買い出し終わったらな?」

「やった!」


……本当に元気だなぁ


「では、ありがとうございました!」

「ヘレナも頼むぜー!」


荷物を持ち、買い出しを再開しようとすると……


「……ヘレナ?買い物終わってからって……」

「いいじゃない、ついてくわ!」

「はぁ、まぁいいけど……」


俺自身こうは言ってるけど、まんざらでもない。


村に同世代が少ないとかではないが、いつも仲良くしてくれるヘレナは俺にとって大切な存在である。


本当は訓練やら魔法を練習したいんだけど、たまには遊ぶのも悪くない。



その後、ヘレナと買い出しを終え、村から少しいった所にある小さな丘で遊んでいた。


「はい、エマおばさんからもらったお弁当」

「あぁ、ありがとう」


エマおばさん、つまりは俺の母さんである。


ヘレナが早く行こうとか言うから、家で食べるはずだった昼食のサンドウィッチを預かっていた。


「ん~、おいしい!リリーも来れたらよかったのにね!」

「父さんが厳しいというか過保護だからなぁ、」

「ヘンリーおじさん心配性だもんね~」


リリーも来たがっていたが、父さんがまだ早いと言って泣かせていた。


「それなに~?僕も食べたい!」

「これは、私の~」

「ずるいずるい~」


昼食を食べていると、丘で遊ぶ小さい子供たちが寄ってきた。


「お前ら、家に帰ったら飯あるだろ~?」

「エリオ兄ちゃんとヘレナ姉ちゃんだけずるいよ~」

「そうだそうだー!」


一人が声を上げるたび、どんどん子供が寄ってくる。


ここで食べるとこうなるからなぁ、これは俺のサンドウィッチだぞ!


でも、そんなこと言えるわけないしな


「全員で何人いるんだ?」

「今日はね、4人で来た!」


ぎりぎり足りるな、俺の分はなくなるけど


「しょうがないな、皆一個ずつだぞー!」

「「「やったー!」」」


この笑顔が見れるなら安いもんだ、俺の腹は泣いてるけど……もう少し母さんのサンドウィッチを堪能したかった……


顔に出ていたのか、そんな俺を見てヘレナが心配そうに声をかけてきた


「よ、よかったの?エリオ、エマおばさんのサンドウィッチ大好きなんでしょ?」

「別にいいよ、俺は母さん特製の料理をいつでも食べれるからな」

「……」


ヘレナは優しい、でも転生者の俺と比べればまだ子供なところはある。


「ヘレナ、俺は別にいいし、ヘレナもそれ食べなよ」

「私もあげたらよかったかな……」


「ヘレナ、それ。俺と半分こにしてくれないか?」

「……え?」

「半分だけでも俺は満足だけどな~」

「……いいの?」

「もちろん、俺がそう言ってるんだから」


子供のうちから色んな事を考えてヘレナは将来凄く良い人間になりそうだ。


「……うん、わかった!」

「おぉ!ありがと……う?」

「んっ、食べないの?」


彼女は決してサンドウィッチを手から離さず、俺に向けるだけ。


「い、いや別に自分で食べれる、よ?」

「だめ、半分こする条件」


条件か……小っちゃいころはよくやりたがるよなこれ……


まぁこんなもん子供だと普通にするか、


「ほら、食べないの~?」


さっきまで泣きそうだったくせに、そんな挑発して大丈夫か?


俺は結構負けず嫌いだぞ。


「あ~む!」

「あぁー!ちょっとエリオ、食べすぎ!」

「ふはんな、ほまえがはふい!」

「もぉー!」



「エリオ兄ちゃんがヘレナねえいじめてるー!」

「そんなこといいからエリオにい魔法見せて!」

「そんなことって何よ!」



いるだけで笑顔になれる空間ってのはこれだな。


「エリオにい早く~!」

「あぁ、いいぞ。待っ……」


……なんだ?


魔法を発動するため、魔力に意識を向けた時だった。少し離れた木陰から風の流れを乱すような魔力の揺れを感じる。



「エリオ?」

「みんな、ちょっと静かに」


……やっぱりだ、何かがいる。

村の大人でも、子供でもない……


「……みんな、絶対にここから動いちゃだめだ」


俺のただならない雰囲気を察したのか、無言でうなずくヘレナと子供たち。


……いざとなれば、ヘレナにみんなを任せるしかない。

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