第9話 与えられたものとは2

ミリアさんがなぜそんな表情をしたのか、理由は分からない。


だが、気になることがあるのなら全部聞かせてほしかった。




「何が気になるんですか。僕はこの世界のことを何も知らないので、教えてもらえると助かります」


「うーん……少し言いにくいんだけどね」




そう前置きした、その時だった。


小屋の扉が開き、外から六、七歳ほどの小さな女の子が入ってくる。




「ただいま、お母さん。…… あれ、お客さま?」




つり目がちな目元と、少し暗めのダークブロンドの髪。ミリアさんによく似た整った顔立ちで、将来は美人さんになるのは間違いなしの可愛らしい女の子だ。手には籠を抱え、中には香草らしきものが詰め込まれていた。




「おかえり、ミーナ。こちらはカミジョー・ナオさん。母さんが凄くお世話になった恩人だよ」


「いらっしゃいませ。ミリアの娘のミーナです」


「は、初めまして。上条七桜です。急にお邪魔してごめんね」




ミーナさんは丁寧に頭を下げると、そのまま小屋の奥へと入っていった。




……娘。




一瞬、思考が止まった。


二十代前半にしか見えないミリアさんに、あのくらいの子供がいるとは。




「娘さんが、いらしたんですね」


「ああ。ここでは私とミーナの二人暮らしだ。客人が来ることも滅多にないから、ろくなもてなしも出来なくてね」




森の中の一軒家。母娘二人。


気になることは多いが、踏み込むべきではない話題だろう。




「この辺りは魔獣も少ないし、家の周囲にはやつらの嫌う匂いのする植物を植えている。日中に裏の畑で香草や薬草を育てるくらいなら、子供でも安全なのさ」


「そうなんですね。しっかりした娘さんですね。おいくつなんですか」




「なんだい、目をつけたのかい? いくらナオ君でもミーナはやれないよ」




ニヤニヤとした笑み。


いくら女性に縁が無かった僕でも流石に6歳くらいの女の子に手は出さないよ!?




「なんでそうなるんですか!?」


「若い未婚の女性の年齢を気にするというのは、そういう意味に取られがちなんだが」


「僕の世界ではそんなことありませんでした。僕はただ……」


「ただ?」


「ミリアさんのお子さんにしては、大きく見えたので」




一瞬の沈黙の後、ミリアさんは小さく頷いた。




「なるほど。子供を産む年齢の感覚が違うのかもしれないね。私は三十になるし、ミーナは今年で八つだ。ここでは遅い方さ」




三十。




言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。




「そんなに驚くことかい?」


「いえ…… その年齢で遅いというのも驚きですし、正直、二十代前半だと思ってました」


「お世辞を言っても水くらいしか出ないよ」




そう言いながら、ミリアさんは満更でもなさそうに眉尻を下げた困ったようなあの顔で笑う。


ヤバい、可愛い。


僕は女性に免疫がないのでちょっとお話をして可愛い仕草をされたらコロッといってしまいそうになるのだ。


危ない。






「それより、話を戻そう」




空気を切り替えるように、ミリアさんは姿勢を正した。




「君が授かった力は、本当に治癒能力だけなのか?」


「そう言われても…… 僕は医者になりたかったので、その願いを叶えてくれたんだと思います。あと、自分が見ていて面白くなるようにはするとも言ってました」




それから、思う存分女性に触れるようにしてくれる、とも言っていた。


そんなこと言ったらセクハラ間違いなしで絶対に白い目で見られるから言わないけど。




「医者、か。君の世界ではどんなことをする職業なんだ」


「怪我や病気を治す人です。薬を使ったりもします。僕の祖父がそうだったので自分もなりたいと思っていました」


「……病気も、か」




その一言に、ミリアさんの視線が鋭くなる。




「この世界では、治癒師が怪我を癒し、薬師が薬を作る。病気は基本的に生命力頼みだ。呪詛なら祈祷師の仕事になる」




話を聞きながら、胸の中で点と点が繋がっていく。




治癒魔術の延長ではない。


もっと別の何か。




傷に触れた時、自然と分かった状態。


消毒をと思えば、流れ出た血まで消えたこと。


治す、というより処置する感覚。




僕の曖昧な「医者のイメージ」。


それを、人知を越えた力として形にしたもの。




与えられしものとして昇華された、医療行為という神の奇跡。




そう考えると、不思議なほどしっくりきた。

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撫でポってこんなんだっけ!?生真面目ないやらしい癒し手は真っ直ぐにイキたい @A-kakko-c

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