第53話:誓いの歌
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### **第35話:誓いの歌**
202X年、12月31日。大晦日。
日本武道館は、開演前から異様な熱気に包まれていた。
一万人の観客が手にするペンライトの光が、アリーナを埋め尽くし、天井まで届く。
舞台裏。
絵里奈と詩織は、互いの手を固く握り合っていた。
「…緊張するね」詩織が、震える声で呟く。
絵里奈は、詩織の汗ばんだ手を握り返した。
「大丈夫。私たちには、ハルカと、皆がいる」
先ほど、共演するサステナとEmotionのメンバー、そして、サプライズゲストである元Branchの二人が、舞台袖で二人にエールを送った。
元Branchの二人は、スタッフの制服姿で、緊張した面持ちで立っていた。
「…行くよ、絵里奈ちゃん」
詩織が、決意の表情で絵里奈を見つめる。
絵里奈は、深呼吸をした。
(ハルカ…見ていて。これが、あんたの、私たちの最後のステージだ)
舞台監督の声が響く。
「『TwinSpark』、スタンバイ!」
二人は、大きく息を吐き、ステージへと続く階段を登り始めた。
一歩、また一歩。
そして、眩いスポットライトがステージ中央を照らす。
大歓声が、地鳴りのように武道館全体を揺らす。
「**いくよ、ラストステージ!**」
絵里奈と詩織は、ステージ中央に立つ。
目の前には、一万人のファン。そして、その向こうには、日本中の視聴者。
二人の顔は、緊張と、そして強い決意に満ちていた。
絵里奈が、マイクを握り、ゆっくりと話し始めた。
「…ファンの皆様。そして、今日、このテレビをご覧になっている全ての皆様」
会場が静まり返る。
絵里奈は、詩織と顔を見合わせ、深く頭を下げた。
**「この度は、私たちの突然の失踪により、多大なるご心配とご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます」**
謝罪の言葉に、会場からどよめきが起きる。
しかし、絵里奈は、それに構わず、真剣な眼差しで、まっすぐに観客を見つめた。
「私たちは、**全てを終わらせるために戻ってきました**」
その言葉に、会場のざわめきが収まる。
「そして、今日、このライブをもちまして、私たち『TwinSpark』は、**活動にけじめをつけ、引退いたします**」
詩織は、涙をこらえながら、絵里奈の言葉を支えるように、マイクを握った。
「ファンの皆様に会うために、そして、**さようならを言うために**、私たちは、このステージに立っています」
その時、客席の一角から、一人の男性の声が響いた。
それは、長年『TwinSpark』を応援してきた、熱心なファンの一人だった。
**「いいじゃんか!それで!」**
その声は、会場全体の「もう、彼女たちを苦しめるな」という、無言の同意を代弁していた。
「お前たちが選んだ道なら、それでいい!」「応援してるぞー!」
観客から、温かいエールが送られる。
絵里奈は、その声に、唇を強く噛みしめた。
(ありがとう…)
絵里奈は、詩織と顔を見合わせ、深く頷いた。
もう、迷いはない。
絵里奈が、力強く叫んだ。
**「さあ、行こうぜ! ライブ開始だ! いっけー!」**
次の瞬間、ステージの照明が眩く点滅し、会場を揺るがすような重低音のイントロが鳴り響いた。
『TwinSpark』の代表曲――**『Future in the Sky』**だ。
大スクリーンには、三人が肩を組み、笑顔で映る、あの頃の映像が流れる。
歌い出しは、詩織の透き通るようなボーカル。
「傷だらけでも空を目指そう…!」
そして、絵里奈のクールなラップが、それに続く。
「一人じゃないから、もっと高く飛べる…!」
会場は、一瞬で熱狂の渦に包まれた。
「**ぐぁー!!**」
一万人の観客が、ペンライトを振り上げ、地鳴りのような**大歓声**を上げる。
舞台袖の小百合は、その光景を、冷たい目で見ていた。
(始まったわね…私の描いた舞台が)
しかし、彼女の計画は、まだ完全には見えていなかった。
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