第48話:最後の誓約*
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### **第30話:最後の誓約**
「戦おう。もう一度、あいつのいる場所に戻って。そして、今度こそ、全てを終わらせる」
孝子(絵里奈)のその一言は、二人の逃亡生活に、明確な終わりを告げた。
もう、怯えながら各地を転々とする日々は終わったのだ。
目的地は、決まった。
全ての元凶がいる場所――東京。江藤音楽事務所。
帰りの列車の中、二人の間に言葉は少なかった。
だが、その沈黙は、これまでの気まずいそれとは全く違う、覚悟を共有する者同士の、静かで力強いものだった。
詩織は、孝子の手首に残る薄い手錠の痕を、そっと撫でた。
東京に戻る前夜、二人は海沿いの小さな町の、安宿に泊まった。
窓の外には、暗い冬の海が広がっている。
打ち寄せる波の音だけが、部屋に響いていた。
布団を並べて横になりながら、悦子(詩織)が、ぽつりと呟いた。
「…私たち、これからどうなっちゃうんだろうね。あの人に勝てるのかな」
その声には、不安と、ほんの少しの恐怖が滲んでいた。
相手は、芸能界に絶大な権力を持つ江藤小百合だ。
まともに戦って、勝てる見込みなど、ほとんどない。
最悪の場合、ハルカと同じ運命を辿ることになるかもしれない。
そんな悦子(詩織)の不安を感じ取ったのか、孝子(絵里奈)は、静かに天井を見つめたまま、言った。
**「…もう、終わりにしよう」**
その言葉は、穏やかで、全てを受け入れたような響きを持っていた。
「全部、終わらせて。ハルカの無念を晴らして。あの女の罪を、世間に明らかにしたら…」
孝子(絵里奈)は、一度、言葉を切った。
そして、はっきりと、宣言するように続けた。
**「今年の年末に、ラストライブをしよう。それが、私たちの最後の仕事よ」**
悦子(詩織)は、息を呑んだ。
「え…? ラストライブ…?」
それは、引退を意味していた。
物心ついた時から、それだけを夢見て、全てを懸けてきた道。
緑川村を飛び出し、辛いレッスンに耐え、ようやく掴んだ栄光。
それを、自らの手で捨てるというのか。
しかし、悦子(詩織)の心に、驚きや悲しみはなかった。
むしろ、すとん、と腑に落ちるような、不思議な安堵感があった。
もう、分かっていたのだ。
ハルカを失い、小百合の醜悪な本性を知ってしまった今、自分たちが以前のように、純粋な気持ちでステージに立つことなど、もう二度とできないということを。
血塗られた栄光の上で、偽りの笑顔を浮かべて歌い続けることなど、魂が許さない。
「…うん」
悦子(詩織)は、力強く頷いた。
「それがいいね。二人でさ、**けじめつけて、引退しよう。**普通の女の子に戻ろうよ。孝子ちゃんと、悦子に」
その言葉に、孝子(絵里奈)の口元に、本当に久しぶりの、心からの笑みが浮かんだ。
「そうだな」
失うものは、もう何もなかった。
夢も、キャリアも、名声も、全てを捨てる覚悟を決めた時、二人は何者にも縛られない、最強の存在になった。
守るべきものは、たった一つ。
踏みにじられた、友と自分たちの、魂の尊厳だけ。
二人は、最後のステージへと向かう。
それは、スポットライトも、歓声もない、たった二人だけの、引退公演。
江藤小百合という悪魔に、罪の代償を払わせるための、最終決戦の舞台だった。
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