第43話:血塗られた栄光



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### **:血塗られた栄光**


沢尻ハルカの死から半年が過ぎた。

江藤音楽事務所は、ハルカの死を「若すぎる才能の悲劇」として巧みに利用した。

『TwinSpark』は、「亡き友の想いを背負い、悲しみを乗り越えて歌う」というストーリーを纏い、デビューシングル『Future in the Sky』はチャートを駆け上がり、瞬く間に国民的な人気を獲得した。


年末の音楽番組の楽屋。

絵里奈と詩織は、モニターに映る自分たちの姿を見つめていた。

司会者は、判で押したように「辛い時期をよく乗り越えましたね」と涙ぐんでみせる。コメンテーターは「彼女たちの歌声には、友を失った悲しみが宿っている」と、したり顔で語っている。


(ふざけないで…)


絵里奈の胸には、冷たい怒りが渦巻いていた。

ハルカの死は、美談などではない。小百合という悪魔によって、魂を冒涜され、命を奪われた悲劇なのだ。

**ハルカの死を糧にするように、『TwinSpark』は爆進していく。**

その成功が、どれだけ虚ろで、血塗られたものか。絵里奈には痛いほど分かっていた。


(スキャンダルすら利用して、話題にする。江藤小百合がやりそうな、最も醜悪な手口だわ)

復讐の炎は、この成功の裏側で、静かに、しかし確実に、燃え上がっていた。


その日、『TwinSpark』は、その年の音楽賞を総ナメにし、大晦日には紅白歌合戦のステージに立つことが決定した。


楽屋に戻った詩織は、興奮と安堵で顔を紅潮させていた。

「絵里奈ちゃん、すごいよ! 私たち、やったんだね! レコ大…! やっと、ハルカちゃんに良い報告ができるよ!」


詩織は、喜びを抑えきれず、隣に座る絵里奈の肩や背中を、**バシバシと叩いた。**

「やったね! 私たち、ずっと頑張ってきたんだよ!」


その無邪気な喜びの表現が、今の絵里奈には、ガラスの破片が突き刺さるような痛みだった。

絵里奈は、**何の反応も示さなかった。**

笑顔の仮面の下、彼女の瞳は凍りつき、感情の光を完全に失っている。


詩織の手が、絵里奈の背中を叩くのをやめた。

「…絵里奈ちゃん?」


その瞬間、詩織は理解した。

絵里奈は、この成功を祝っていない。

あの事件以来、絵里奈はずっと、自分たちとは違う世界を見ている。

自分たちの「光」の喜びは、絵里奈の背負う「闇」には届かない。


二人の間には、もはや、ステージ上での完璧なシンメトリーなど存在しなかった。

そこにあったのは、成功という名の光が、逆説的に生み出した、**冷たい断絶**だった。

詩織は、自分の喜びが、絵里奈の心にどれほどの負担をかけているのかを知り、息を詰まらせた。


「…ごめんね、絵里奈ちゃん。私、ハルカちゃんの部屋から、こっそり一枚だけ、手紙を見つけてたの…」


詩織は、震える手で、ハルカの遺書の一部を絵里奈に差し出した。それは、ハルカが警察署で発狂し、死を選んだ後、部屋に残されていた、最後の遺書だった。


絵里奈は、それを読むと、顔から全ての血の気が引いた。

『私にはもう、抵抗する力は残っていませんでした』

『トイレにも行かせてもらえない。誓えと…』

『チカレタ。チカレタ。もう、いい。…コワい。…チカレタ。…さようなら。』


そして、絵里奈が、これまで誰にも言えなかった、小百合による支配の真実を、詩織に語り始めた。あの手錠の屈辱。キス寸前で止められる精神的拷問。


「私、あの女の言う通りに、完璧な『飼い犬』を演じてたの。だから、ハルカの苦しみにも、気づけなかった」


絵里奈は、静かに、自嘲気味に笑った。

「**すげーよな、私たち。この成功は、ハルカの血と、尊厳の上に成り立ってるんだ**」


詩織の顔から、喜びの表情が、一瞬で凍りついた。

彼女は、自分の無邪気な喜びが、絵里奈の抱える絶望の深さと、どれほど乖離しているかを痛感する。


「…やめて」


絵里奈の声は、氷のように冷たかった。

詩織は、叩いていた手を止め、顔を上げた。


「…え?」


絵里奈は、詩織の顔をまっすぐ見据えた。

その目には、詩織の夢を見る瞳とは違う、復讐を誓う者の、冷たい光だけがあった。


「その手、下ろして。**その喜びは、ハルカの死の上にあるんだ**。私は、笑って祝うつもりはない」


二人の間に、決定的な、冷たい亀裂が入った瞬間だった。

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