第16話『遺言の代筆』
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**小説『サスティナブルEmotion』 遺言の代筆**
先生は、開いていたノートをパタンと閉じた。
その乾いた音が、静寂に響く。
先生はすぐには答えず、サイドテーブルに置かれたコーヒーカップを手に取り、一口だけ口にした。そして、静かに問いかけた。
「それで? どうしたいの?」
先生の瞳が、冷徹な光を帯びて私たちを見据える。
「君たちがしたいことは何? あの社長令嬢への仕返し?それとも 復讐なの?」
社会的に抹殺したいのか、それとも法で裁きたいのか。先生は私たちの心の奥底にある闇を覗き込もうとしていた。
けれど、私たちは迷わず首を横に振った。
「いえ……違います」
私は真っ直ぐに先生を見返した。
「復讐しても、ハルカは帰ってきません。私たちが望むのは、そんなことじゃないんです」
「じゃあ、何のために?」
「彼女が歩んだ道のりを、消したくはないんです」
ハルカがどれだけ努力していたか。どれだけ夢に向かって輝いていたのか。
その事実が、理不尽な悪意によって「無かったこと」にされて闇に葬られるのだけは、どうしても耐えられなかった。
「彼女が存在した証を、先生の文章で、永遠に残してほしいんです」
先生の表情が、わずかに和らぐ。
しかし、詩織が続けた言葉で、その空気は一瞬にして凍りついた。
「それから、もう一つ理由があります」
詩織は膝の上で拳を握りしめ、震える声で告げた。
「この本を……もし、私たちに何かあった場合の『遺書』代わりにしてほしいんです」
ガシャン!!
陶器がぶつかる激しい音が、部屋を切り裂いた。
先生の手から滑り落ちたわけではない。ソーサーの上に、カップを叩きつけるように置いた音だった。
中のコーヒーが跳ねて、テーブルクロスに黒い染みを作る。
「……君たち、本気で言ってるの?」
先生の声が、怒りと恐怖でわずかに震えていた。
(続く)
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