第11話『最強の悩み事』



***


**小説『サスティナブルEmotion』最強の悩み事**


先生に図星を突かれたものの、対談はなんとか進行した。

仕事モードの先生は驚くほど饒舌で、本に込めた想いや、感情との向き合い方について真摯に語ってくれた。

でも、ふとした瞬間にこちらを見て、パチリと片目をつぶってウィンクをしてくる。

『あとで聞くからね』という合図だ。


「――はい、カット! お疲れ様でしたー!」


スタッフの声と共に、張り詰めていた空気が緩む。

先生はすぐさま立ち上がると、私たちの元へスタスタと歩み寄ってきた。


「お疲れ様。いい対談だったね」

「お疲れ様でした! 先生のお話、すごく勉強になりました!」


「で?」


先生はニヤリと笑い、私たちの顔を覗き込んだ。


「さっきの続き。相談? 悩みって何かな? 恋愛相談? それとも人生の岐路?」


先生は腕まくりをして、どんな重い悩みでも受け止める準備万端といった様子だ。

私たちは顔を見合わせ、意を決して背中に隠していた「それ」を取り出した。


「はい! あの……!」


私は震える手で、使い込まれてボロボロになった青い表紙の本を差し出した。

詩織も同じように、自分の本を突き出す。


「私たちの一番の悩みは……先生の本にサインをもらってないことだったんです! お願いします!」


「……へ?」


先生の動きがピタリと止まった。

数秒の沈黙の後。


「ぷっ……!」


先生は吹き出し、お腹を抱えて笑い出した。


「あははは! なんだそれ! 『助けて』って顔してるから、借金の保証人にでもなってくれと言われるかと思ったよ!」


「そんなわけないじゃないですか!」

「私たちにとっては、人生で一番大事なミッションなんです!」


私たちが真剣に訴えれば訴えるほど、先生は涙を拭いながら笑い転げている。

その無防備な笑顔を見て、私たちもつられて笑ってしまった。


「わかった、わかったよ。喜んで」


先生はペンを取り出し、さらさらとサインを書き始めた。

そこには、私たちの名前と、あの日書店で見せてくれたような、太陽みたいな笑顔のマークが添えられていた。


(第1章 完結)


***


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