第7話秘密の立ち読み



***


**小説『サスティナブルEmotion』 秘密の立ち読み**


和やかな空気が流れていたその時、本棚の陰からスーツ姿の女性が血相を変えて飛び出してきた。


「ちょっとちょっと先生!! ここで何油売ってるんですか!」


その女性は、私たちの間に割って入ると、篠原先生の腕をガシッと掴んだ。どうやら担当編集者かアシスタントさんらしい。


「すみませんね、そこのお二人! 先生は今、締め切り前で分刻みのスケジュールなんですから! 優雅にお喋りしてる暇なんてないんです!」


彼女の剣幕に、私たちはたじろいだ。

やっぱり、売れっ子作家さんは忙しいんだ……。申し訳ないことをしたな、と思ったその時、詩織が不思議そうな顔で口を開いた。


「え? でも先生、さっきまであそこの棚で、のんびり立ち読みしてましたよ?」


「……はい?」


アシスタントさんの動きがピタリと止まり、ゆっくりと先生の方を向く。

先生の顔から、サーッと血の気が引いていくのが見えた。


「た、立ち読み……? 取材に行くと仰って出てきましたが……?」


アシスタントさんの目が、眼鏡の奥で光った。


「わーっ! わーっ!」


先生は慌てて人差し指を口元に当て、必死の形相で私たちに向かって「シーッ! シーッ!」とジェスチャーを送ってきた。


「ち、違うんだよ! これは市場調査というか、その……!」


「先生? ……あとで編集部でたっぷりお話聞きますからね」


「ひぃっ」


あのクールでオトコまえな先生が、アシスタントさんの前では借りてきた猫のように縮こまっている。

そのギャップに、私たちは顔を見合わせて吹き出しそうになるのを必死でこらえた。


(続く)


***

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