第2話アポなし突撃



***


**小説『サスティナブルEmotion』


取材の返事を待つ間、私たちは居ても立っても居られず、都内の大型書店に来ていた。もちろん、目的は平積みされたあの本を見に行くこと(通称:聖地巡礼)。


「ねえ、篠原先生ってどんな人だと思う?」


エスカレーターに乗りながら、私はふと尋ねた。


「うーん、偏屈で怖い男性かな? ほら、文章が達観してるし、世捨て人みたいな」

「えー違うよ! 絶対すごい美人だよ! あの透き通るような文章は、心も見た目も美しい人にしか書けないって」

「ふーん。まあ、夢を見るのは勝手だけどさ」


詩織は呆れたように笑うけれど、私は譲らない。


文芸書のコーナーに差し掛かった時だった。

『Sustainable Emotion』がタワーのように積まれた特設コーナー。

その前で、明らかに挙動不審な人物が一人。


帽子を目深にかぶり、大きなサングラスをしているその人物は、本のタワーの前を行ったり来たり。

明らかにキョロキョロと周囲を警戒しつつ、そっと本を手に取っては、また戻している。


「……あ!」


私の足が止まる。全身に電流が走ったような感覚。

あの背中の丸め方、本を扱う指先の繊細さ。


「ねぇ詩織、もしかしてもしかして?」

「え、何が?」

「あの人……篠原先生じゃない? ね? 突撃してみようか?」


私は小声で、でも興奮を抑えきれずに囁いた。


「はあ!? ちょ、ちょっと待ってよ! 違ったらどうするの! めっちゃ怪しい人かもしれないじゃん!」


詩織が慌てて私の袖を掴んで引き留めようとする。


「大丈夫だって!」


私は詩織の手を振りほどくと、確信に満ちた顔で言いきった。


「ファンなんだよ? 私たちが擦り切れるほど読んだ本の作者だよ? 間違う理由ないでしょ!」


「ちょっ、待っ――」


詩織の制止も聞かず、私はその怪しい人物の背中に向かって、一歩踏み出した。


「あの! すみません!」


その人物が、ビクッとして振り返る。

サングラスの奥の目が、大きく見開かれた気がした。


(続く)

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