第4話 とんでもないものを拾ってしまった

 あっという間に居候を拉致された町川一家。

 これで終わったかのように思えたが、なぜか与一と母はリビングのテーブルを挟み、先ほどの大柄な男と小柄な女性の二人と向かいあって座っていた。

 

「なんなのこれ? てかセイちゃんいったい何者なの? お忍びの芸能人とかアイドルとかなの?」


 そう小声で母が与一に聞くと、与一は知らないといったふうに小さく何度も首を振った。


「先ほどは失礼しました。お怪我はございませんでしたか?」


 大柄な男が口を開くと、見た目に似合わない優しい声色でそう聞いてきた。


「と、特には大丈夫です」


「そうですか、よかったです。色々聞きたいことがあるかと思いますが、先に私たちの自己紹介をさせていただきます。私、異星人共存推進委員会いせいじんきょうぞんすいしんいいんかい遠藤 英二えんどう えいじと申します。」


「イセイジン? 共存?」


「あ、テレビで聞いたことあるかも」


「えぇ、協会の存在自体は広く認知されているものと思われます。ですが、詳しくどのような活動をしているかまでは、機密事項ですので、知れ渡ってはいないでしょう」


 母は何が何だか分からない様子だったが、与一は思い当たる節があった。これはおそらくセイジもといカワイイ星人が深く関わっている話だと。


「えっと、与一の母の町川 善子まちかわ よしこです」


「息子の町川与一です」


「お二人ともありがとうございます。それでまずお聞きしたいのが、お二人は彼の正体をご存知ですか?」


 英二は単刀直入にそう聞いた。

 与一はゾッとして下を向いた。これは話してはいけないことなのではないかと、雰囲気がそう語る。

 何も知らない母は、


「いえ、わかりません。息子が先日出会って急にしばらく泊めてやってほしいと言われました」


 と正直に話した。

 その様子を嗅ぎ取った英二は、「そういう感じか」と小さくつぶやくと、


「与一くんはまだお母様に事情をすべて説明していませんね?」


 と与一をまっすぐ見て言う。その強かな目線に耐えかねて、しぶしぶ頷いた。

 それを見た母は、


「どういうこと?!」


 と与一を責めた。


「どうか落ち着いてください。説明は私共でさせていただきます。シノブ、説明できるか?」


「はい」

 

「では頼む」

 

「それでは私、御影 忍みかげ しのぶが説明させていただきます」

 

 固唾をのんで聞く二人。


「簡単に申しますと、お二人がかくまっていたあの存在は、『カワイイ星人』という異星人です。そして私たちはカワイイ星人との共存の可能性を模索して研究を進めております」


 何かとんでもないことを聞いているはずなのに、受け止められるほど頭が回らない二人。


「研究内容、計画につきまして私からお話しできることはございませんが、お二人にはお願いがございます」


 二人は相槌も打てずに次の言葉を待った。

 

「お二人にはカワイイ星人と共に暮らしていただき、私たちの研究のテスターとしてご協力いただきたい所存です」


「カワイイ星人? テスター?! どういうことです!?」


 母は絞り出すようにそう聞いた。


「これからも共に暮らしていただきたいということです。カワイイ星人にかかる費用はすべてこちらで支給させていただきます。そしてご協力いただける場合……」

 

 そう言って忍が二人に書類を見せ、数字が書かれている部分を指さした。

 

「……これは?」

 

「テスター協力に対する謝礼金です。非課税であり国による認可もおりていますので、安全かつ自由にお使いただけます」


 与一と母はその額面のゼロを数え切ると、あらためて頭を抱えた。


「これ本当ですか?! 無理です! 受け取れません!」


 母はそう突き返すと、


「拒否されるようであると……、そうですね、カワイイ星人の存在を知ってしまっているので、漏洩を防ぐため無期限の監禁をさせていただきます」


「はぁ?! 秘密って、今あなたがしゃべったじゃないの!!」

 

「ええ、ですから彼の正体を知ったお二方にご協力をお願いしております」


 やられたと床に弱々しく倒れ込む母。与一はもう戻れないところにいる自分たちの未来に焦燥を覚えた。

 その後忍は座り直し、少し間を開けてから、


「それではご協力いただけるということで、簡潔にご協力いただきたい詳細と、禁止事項をご説明させていただきます」

 

 と話し始めた。勝手に協力することにされているが、状況が状況のため、二人は突っ込む気力もなかった。


「カワイイ星人には偽名を名乗らせ、社会生活、つまり学生として生活させるにあたったサポートをご家族としてご協力いただきます」

 

 忍から説明された拍子抜けの内容に、


「それだけですか?」

 

 と返す母。


「はい。カワイイ星人の衣食住と生活のサポートをしていただければ基本は問題ございません。それに加えるものといたしましては、カワイイ星人となるべく多くコミュニケーションをとっていただき、良好な関係を築いていただけると大変助かります」

 

 思ったよりも平和な内容に気が緩んだ母は、


「それなら大丈夫です!」

 

 と返す。


「前向きにご協力いただけるようでこちらとしても大変喜ばしいです。では、次に禁止事項ですが……」

 

 そう忍が切り出すと、先ほどまで淡々と説明していた彼女が小さくため息をつき、

 

「あのカワイイ星人を、カワイイ星人であることを誰にも知られずに、あくまで人間として生活をさせたいので、奴の素性の口外は厳禁です。もちろん私たちの存在と研究内容、その他私たちから共有した情報の一切も口外厳禁です」

 

 と説明した。隣で申し訳なさそうに顔を伏せる英二。

 それを聞いた与一と母は、「まぁそれくらいは」と思ったが、よくよく彼のシルエットを思い浮かべると、与一は一気に顔色を悪くした。

 

「あの、あいつ耳が……」


「そこなんですよ。ホントに。最悪のスタートですよまったく。お二人には負担をかけてしまう形となってしまい申し訳ありません」


 英二はやってられんといった顔でそう呟く。


「ホントにすみません……」


 与一は罪悪感と情けなさ、自分の嗜好が原因の一つである恥ずかしさに心をかき乱されて、小さく縮こまった。

 母は与一の様子を見て不思議そうにしていたが、あまり内容を聞ける状況ではないため、聞かなかったことにした。


「いえ、我々が場所の特定に遅れがあったことが原因であり、与一さんが原因とは言い難いです」


 フォローもフォローで傷口に染みる与一であった。


「そ、そのー、学校とかに協力を仰げたりは……」


 母が恐る恐る手を挙げると、


「それは厳しいですね。資金が無限にあるわけではありませんし、何よりあまり協力者を増やすと情報漏洩のリスクが高まります」


 と忍にきっぱり言われた。


「ですよねー」


 大人しく引き下がる母。


「ちなみにカワイイ星人の行動に加え、お二方の言動もすべてモニタリングさせていただきます。なにか情報漏洩のリスクのある発言が聞こえた瞬間に、しかるべき措置を取られせいただきます」


 と忍が話すと、与一と母はその発言で肝を冷やした。


「それで、もし仮に事項を破ってしまったときのペナルティとかは……?」


 与一は万が一を考えて、聞きたくもなかったがそう聞いた。


「謝礼金の全額返済、損害の大きさに応じた賠償などです」


「そ、そうですよね」


 与一は予想通りの答えに少し安心した。だが、


「あと、これ以上の漏洩を防ぐために、必要であれば監禁や殺害もやむなしかと」


 と忍が付け加えるように、より冷徹さをこめた物言いで補足した。


「さ、殺害!?」


 あまりにも物騒な言葉に焦った二人に対して、


「冗談です」

 

 と表情一つ変えずに忍は言った。


「やめてくださいよ!!」


 ホッとした与一はそう怒った。それと同時に真顔で冗談を言う人は苦手だとひしひしと感じた。

 安心している与一に、


「ですが、命がかかっているつもりで事項を守っていただきたいことは事実ですので、肝に銘じておいてください」

 

 と忍は釘を差した。


「は、はい……」

 

 忍のいちいち怖い言動に怯える二人だった。


「それとあのカワイイ星人には私たちの存在、その目的や今回のことについて伝えないようお願いします」


「それはどうしてですか?」


 カワイイ星人はどちらかと言うと英二や忍側の存在だと思っていた与一は、ふとそう聞いた。


「研究対象と口裏を合わせては正確なデータは取れません。それにあのポンコツ具合を見ると漏洩のリスクがかなり高いです」

 

 ここでも忍は淡々と言った。与一はこの人は文句も表情を変えずに言うのかと感心した。それと同時に先ほどのため息の意味とその重さも理解したのだった。


「なるほど」


 そしてこの話について、特に後半の説明については割としっくり来た与一だった。


 そうして話は終わり、去り際に、期間は半年間を予定していると伝えられた。だが、成果発表に必要なデータが取れれば早めの終了もあることも伝えられた。あとセイジは明日の早朝返すとも聞いた。



「あんた、とんでもないもの拾ってきたね……」


 二人が帰ったあと、少しやつれた母がそう言う。


「こんなことになるなら無視して逃げてきたかもね」


 二人して目を合わせると、これからどうするかという現実から目を背け、謝礼金の使い道を考えることにした。

 だが、ペナルティが頭によぎると、下手に使えないなと再び現実に戻された。

 こんな二人の最適解は、


「もう寝ましょう」


「超賛成」


 眠ることだった。

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