第2話 何者なんだ?
すっぽんぽんの美少年らしき存在を前に、まず与一は、
「とりあえずこれ着てくれ。そんなんで外歩かれたらたまったもんじゃない」
と、自分の予備のジャージを手渡した。
「ありがとう! そこはちょっと悩んでたんだよねー。大事なところは葉っぱで隠すとか」
「大事なところって自覚はあるんだな。じゃあなんで俺の前だと平気なんだ?」
「だって与一は知ってる人だし、男同士でしょ?」
カワイイ星人は照れる様子一つ見せずにそう言った。
「そう、それだ! なんでお前は俺を知ってるんだよ!? そもそも『カワイイ星人』ってなんだよ?!」
与一は思い出したかのように投げかけると、
「もう、急に何個も聞かないでよー。なんて言えばいいかなー。めんどくさい。別にボクが誰だって良くない?」
と、はぐらかすというより、本当にただ話すことが億劫である様子で答えた。
「良くない! 怖い!」
そうストレートに言う与一に、
「えぇ……」
とカワイイ星人は軽く引いた。だが、それと同時に怖がられてるのなら話さなければいけないと思った。
「じゃあ簡単に言うよ。ボクはこの星で誰からも「カワイイ」って思われるようになるために来たんだ。あと「カワイイ」とは何かを学べとも言われたっけ? よくわかんないや。それで与一を知ってるのは、与一頭の中を見させてもらって、この星の常識を君から学んだからだよ」
「は?」
「もうこれ以上説明しないよ。だってボク自身も仕組みとかよくわかってないし。それに与一だって自分の身の回りのほとんどが、仕組みとかよくわかんないものじゃないの?」
与一は言い分には納得したが、こんな内容なら聞かない方が混乱しなかったかもしれないとも思った。
「ってかなんで与一は今そんな態度なの? さっきはカワイイって言ってくれたのに。与一が一番好きな見た目だよ?」
「好きな見た目?!」
「与一の好きなアイドルのなんだっけ? 『ゆりち』だっけ? に似せながら、与一が好きなタイプの顔を組み合わせたんだよ!」
「嘘だろ、そんなこともできんのかよ。悪質だな……」
「悪質ってひどくない?!」
心外だと言わんばかりに否定するカワイイ星人。
与一は混乱しているからこそ、本質とは離れたところが余計に気になり、
「てか、そこまでできるのに男にしたのかよ。なんでだ?」
と聞いた。するとカワイイ星人は、
「え? カワイかったらどっちでも良くない? そんな大事なの?」
ときょとんとした様子で答えた。
「いやどんなに可愛くても男は無理だぞ。興味ない」
と与一は淡々と返すと、
「や、やっぱりかー……」
とカワイイ星人は急に頭を抱えた。
「そう思うならなんで?!」
「だって! 与一が女の身体のこと知らなかったから真似できなかったんじゃん!!」
「なっ! 俺のせいかよっ! いや、俺のせいか……」
与一は理不尽なことを言われているはずなのに、女性との交際経験がないことを責められているようで、申し訳ない気持ちになった。
「女の方がちやほやされるって、与一の常識で分かってたけどさー。ここまでとはね」
「男な理由はわかった。じゃあそのネコミミはなんで着けたんだよ。それにしっぽも着いてるじゃん」
あらためて与一はカワイイ星人の異質さを醸し出す猫の一部に目をやった。
「これ? カワイイでしょ! 近くに猫がいたから真似できたんだー」
「普通に考えて人間には猫の耳もしっぽもついてないぞ」
「え?! でも与一の中にはいたもん!」
「それ、フィクション。作り話の世界だよ」
カワイイ星人はそれを聞くと、どんどん青ざめていき、
「なにそれ!? 紛らわしーよ!! どーすんのコレ!?」
と与一に訴えかけた。だが与一は、
「ま、せいぜい頑張ってな」
と我関せず。
「まってよ!! こうなったのも与一が悪いんだから責任もってかくまってよ! これ見られたら人間じゃないって怪しまれるんでしょ?」
そう言うと、
「俺にもうバレてるだろ?」
「与一はいいの! それにあんなキモい卵見られて『人間です』は無理があるでしょ!」
「それもそうか」
「でしょ! だから与一はボクを匿わなきゃいけないの!」
カワイイ星人は与一の腰にしがみつくと、一向に離れない。
「なっ! おい! ひっつくな!!」
「お願い……、おいてがないで……」
カワイイ星人の必死の懇願。潤んだ瞳で上目遣い。一番好みの顔でこれをされたら与一は為す術などないのである。
「……っ、わ、わかった! 一旦家に入れてやるから話はそれからだ!」
「やったー! ちょろ、じゃなくて与一やさしー!」
与一は余計な一言をこぼしかけたカワイイ星人を一度睨むと、そのまま黙ってキモい卵の殻に目線を向ける。
「ウソウソ! 冗談だって!」
それから二人は与一の家を目指して歩いていった。
ただ、いつも与一が帰る道に戻るのではなく、人目のつかない道を選んで遠回りをしている。
もちろんカワイイ星人の猫耳を他の人に見られないためである。
「なんでこんな通りにくい道なのー?」
カワイイ星人は不満そうにつぶやいた。
「その耳と尻尾を引きちぎれたらもっと楽な道を歩けるぞ」
与一は誰のせいでこうなったかをはっきりさせるような目つきでそう言った。
「怖いこと言わないでよ! もっとカワイイこと言って!」
カワイイ星人は自分の猫耳と尻尾を押さえながら震えた。
なんとか誰にも家にたどり着くと、時刻は十八時を過ぎていた。
与一は焦った様子で、
「うわっ! 時間ないなぁ」
と呟くと、
「俺はまず母さんに電話する。それが終わったらご飯を作るから手伝ってくれ」
と協力を呼び掛けた。
「いやー、ボクお客さんだし? 今日は生まれたばっかで疲れたなー、みたいな?」
「お前本気か?」
「お、おねがいっ♡」
また林の時のような上目遣いで懇願したが、
「『働かざる者食うべからず』だぞ。まぁ、お前が何もしなくても済む方法はあるにはあるけど」
そう言う与一。
「ほんと!? やった! 与一やっぱ優しい! で? どんな方法?」
「殻の中に帰る」
「……頑張ります」
「よろしい」
与一は軽く今日の献立とレシピを話したら、カワイイ星人はすんなりと理解してテキパキと料理に取りかかった。
「ホントに俺の記憶まるまる見られたんだな。手際も俺そっくりだ」
与一は遠巻きに感心しながら見つめていたが、電話をしなければいけないことを思い出し、スマホを手に取り、母の連絡先へ電話をかけた。
「もしもし、母さん、今から言うことは意味不明かもしれないけど、ふざけてるわけじゃないから」
電話がつながるとそう与一は切り出した。
『なに? 今仕事終わりで電車待ってるから、手短に話して』
「わかった。簡潔に言うけど、カワイイ星人をうちでしばらく泊めて欲しい」
与一ははっきりとそう言った。それと同時に頭が真っ白になった。なんで嘘をつかなかったのか。
彼はおそらく嘘を考えている最中に口に出てしまったのだろうと自分の愚かさに納得することしかできなかった。
キッチンで聞いていたカワイイ星人は、
「ちょっと与一! 名前適当に日本人の名前にしてよ!」
と慌てて突っ込んだ。だが、彼の入る余地なく会話は進む。
『なに? 何歳?』
なぜか一言も突っ込まずに話を続ける母を不思議に思いながらも、与一はこのまま進むしかないと決めた。
「同い年」
『ふーん。同い年ね? で? なんで?』
「今日学校帰りに草むらで出会って、身寄りがないみたい」
『ふーん。いまその子家にいるの?』
「いる」
『帰ってから詳しく聞くからその子には居てもらって』
「わかった、じゃあね」
割と簡潔に事が済んだ。
カワイイ星人は与一を無言で睨む。
「なんだよその目は。しょうがないだろ! 焦っちゃったんだから! まぁ、頑張ってくれ」
与一は開き直っていた。
「いやいや、無理でしょ!?」
「なんか母さんも反応薄かったし、何とかなるんじゃね?」
カワイイ星人は他人事だからといってヘラヘラする与一を怪訝そうにじいっと見つめると、彼しか頼ることのできない現状への不満をため息に込めて、ひときわ大きく吐き出した。
「これでホントに大丈夫なの?」
カワイイ星人は与一から借りたニット帽をかぶると、不安そうに聞く。
「これしかない。なるべく頭に意識を向けるなよ」
「ラ、ラジャー……」
そうしてソワソワしていると、ドアを開く音が聞こえた。母が帰ってきた。
「どうしよう……。なんて話すの?」
カワイイ星人は頭が真っ白になって固まっていた。すると、
「ただいま~、それでその子って?」
と母はリビングに顔を出した。
カワイイ星人と目が合う。万策立てる前に詰んだと言わんばかりに固まるカワイイ星人。母の言葉を待つばかりだったが、
「何この子めっちゃ可愛い!!」
とあろうことか母は疑いもせずカワイイ星人に抱きついた。
「与一! ボク与一のママ好き!」
その一言で一気にカワイイ星人は安心した。生まれて二回目のちゃんとした「可愛い」に彼は満足げな様子だった。
「大概だなお前も」
奴は自分以上にチョロいんじゃないかと呆れる与一だった。
母が少しの間取り乱したあと、
「えーっと、君がカワイ セイジくんだよね?」
と、カワイイ星人を見つめてそう言う。
「え? カワイ?」
名前を間違えられたカワイイ星人はそう聞き返した。
「あ、そういうことか」
与一は電話口で母がカワイイ星人という言葉に突っ込まなかった理由が分かった。
カワイイ星人は「カワイイ星人」が「カワイ セイジ」として伝わっていることを瞬時に理解すると、ハッとして露骨に嫌な顔をしながら、
「うん、カワイ、セイジです」
と渋々認めた。
それからのこと。家出少年という設定で話を進めていたら、意外とトントン拍子で話が進み、カワイイ星人改め、カワイ セイジは与一の家でしばらく過ごすことになった。
与一の記憶を見ているセイジが、初対面であるはずの母のことを知っているような口ぶりをしてしまいあやしまれたが、事前に少し話しておいたという与一のフォローでなんとか事なきを得た。
与一の母いわく、「丁度ペットでも飼おうかと思ってたところだったのでちょうどいい。お金もまぁまぁ余裕がある」との事だった。
人を住まわせる理由にペットを飼う予定だったことを話すのはどうかと思った与一だったが、話をややこしくしないように黙って聞いていた。
話が終わり、何事もなかったかのように三人で食卓を囲み、同じ夜を過ごした。
「どうしよう、セイちゃんの寝るところないかも」
寝る間際に母は急にセイジにそう言った。順応が早すぎる母に与一は驚いたが、残りの二人が普通にしていると、突っ込むにも突っ込めなかった。
「父さんの部屋に布団ないんだっけ?」
と与一が普通に紛れながらそう聞くと、
「あいつのものは何もないわ」
ときっぱり答える母。
「まだ父さんとそんな感じなの?」
「まだって何よ。ずっと変わんないわよ」
そう話していると割り込むように、
「じゃあママと一緒に寝る!」
とセイジが言った。母も嬉しそうに頷いた。
「本気かよ……」
セイジの様子からは密着すれば耳や尻尾に触れられるかもしれないということを考慮しているように見えない。
いや、自分から切り出すからには何かあるのか。
与一はそう思うことにして止めずに行かせた。あえて止めるのもそれはそれで不自然だからということもある。
そうしてそれぞれ眠りについたが、今夜にもセイジの秘密が見破られるのではないかと思うと、なかなか寝付けなかった与一であった。
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