第2話 山本家、引っ越しをする・1
「すまん」
山本家の大黒柱、山本颯人はうなだれていた。
ここは食卓、 これから母の節約術を駆使した美味しい夕飯を家族で
頂くはずだった。
いつもと様子の違う夫の様子に妻の和泉も声を掛けるのを躊躇う。
お皿を並べながら心配そうに視線を向けた。
しかし、颯人は中肉中背の体をすぼめて、なかなかその先を言い出さない。
次女の灯は大皿に載ったおかずを心持ち父親の側に寄せるようにそっと置いた。
こんな父親の姿を見たのは初めてだ。
普段はおっとりとした穏やか父親の背景が暗く見えた。
早々にテーブルに着き、母のよそってくれた大盛の茶碗を受け取りながら、
眉をひそめた長女の圭が父親に声を掛ける。
「どうしちゃったってのよ。そんな暗い顔しちゃって」
みんなが気にして言い出せない事をスパッと切り出せるのは、
さすが山本家の女王様というべき圭だ。
その一言に颯人の肩がピクリと動く。
長男の晃が苛立たしげに姉の圭を睨んだ。
そんな視線すら鼻を鳴らして切り捨てた。
「だって、みんな気にしてるじゃない。何があったのよお父さん? 」
「圭ちゃん…」
「灯だって心配なんでしょ。 ほら、さっさと吐いちゃいなよ」
颯人は天井を向いて長く息を吐くと家族を見た。
「実はお父さんリストラされるかもしれない」
「え!?」
「うわあ…」
「うそ……」
「本当なの?颯人さん」
妻の夫の呼び方は交際していたあの時から変わらないままだ。
「上司から心積もりをしとくように、と言われたよ」
颯人がすまなそうな顔で返した。
「結構キツい内容だわ」
圭が腕を組んで溜め息をついた。
「お父さんどうなっちゃうの?」
灯が声が不安に揺れる。
「ごめん、灯。お父さんもまだわからないよ」
家族に重い沈黙が流れる。
なんといっていいのかわからない雰囲気。
温厚で真面目な父親、少し頼りない所もあるけど、家族想いでそんな父親を朗らかで明るい母親が絶妙にフォローしていた。
「まぁ、とりあえずご飯食ベましょう。せっかくの料理が冷めちゃうわ」
和泉が明るい笑顔で促す。
「そうね、食べよう」
圭は箸を持ち直すと豪快に食べ始めた。
「…さすが、圭」
晃が呆れながら苦笑する。
山本家は夕飯を取り始めた。いつもより会話は少なめだが、
これ以上父親に負担をかけまいと普段のように振る舞う。
そんな家族の思いやりに颯人もやっと笑みを浮かべて食べ始めた。
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ファミリートリップ〜山本家の事情〜 満月 花 @aoihanastory
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