急『聞いてた異世界と違う!』

本日37人目の異世界転移者を見送った阿弥陀如来はタブレットを手に取ると開いていたアダルトサイトをそっと閉じた。



「危ない、危ない」



うっかりタブを切り替えられていたら仏界の面目丸潰れだっただろう。



「…………」



ふと気になるのはやはり最後の項目。

3倍の重力を掛けられたあの人間が驚いた拍子に決定を押してしまったのだろうが、誰の魅力値が参考にされたのかは確認しておくべきだろう。

タブレットの画面を異世界転移アプリに切り替えて履歴を確認しかけた瞬間、阿弥陀如来の前にニ頭一身の鳥が舞い降りた。



「やれやれ。今日も多いのぉ」



次の特例措置対象者の到着を知らせるその鳥に呼ばれた阿弥陀如来はもうその履歴を確認することは無かったが、その履歴にはこう記載されていた。



大己貴神おおなむちのかみ



*     *     *



「………………」



あれ?私なにして……。

ここドコだっけ……。



“大丈夫?”


「?」



薄暗い視界の外から女の子の声が聴こえる。


莉子りこか……。

もう帰って来たんだ……早いなぁ……。


いつもなら仕事で帰りの遅い妹。

今日は帰りが早い上にやけに優しい。

寝惚け眼の私は言う。



「大丈夫……ちょっと変な夢見ただけ……」


「夢…?」


「天国に行ったらエロい阿弥陀如来が居てさ……セクハラされたんだ……」


「セクハラ…?」


「うん。寝てる間におっぱい揉まれた……」


「おじさん、何言ってるの?」


「…………おじさん……?」



逆に何を言われてるのかサッパリ分からずは慌てて起き上がった。

その様子にビックリしたのか10歳くらいの女の子が息を飲んだような表情で俺を見つめる。

違う……妹の莉子じゃない。

女の子は言う。



「おじさん……本当に大丈夫?」


「!」



おじさん……?

俺はゆっくり自分の身体を確認した。


え…?……手…デカッ……。

え…?……腕…太ッ……。

え…?え?え?ええ~~ッ?!!

顔を触ってもなんだかゴツゴツしてる気がするし、これってつまりはそういう事だと思う。

入れ替わってる!わけではなく男になってる!


一気に目が覚め、テンションも上がった俺は片手を天高くついついあの台詞を叫んだ。



「異世界にぃ……来たぁあ~~ッ!!」



夢だけど夢じゃなかった!

死んだけど死んでなかった!

ちゃんと異世界に転移されていたことで、俺は最初の会話がちょっとだけ恥ずかしくなった。

いくら寝起きだからと言って確認もしないで見ず知らずの女の子を身内だと思うなんて……マイケル何フォックスだよ……!



「!」



目の前の女の子はどう見ても地球人タイプの人型だし、言葉も理解出来る。

アミさんに伝えた希望通りの異世界に来れたんだ。

今の自分の状態は何となく分かった。

なら次は場所の確認だ。



「なぁ、ここはどこ…」


「……ッ……!」



男なのに『おっぱい揉まれた』と言ったり、『異世界に来た~~!!』と突然叫ぶ俺に恐らく危機感を覚えたのだろう。

目が合った瞬間、女の子は明らかに怯えた表情で走り去って行った。



「あ!おい!ちょっと…!!」



追い掛けようとしても身体が上手く動かず、俺は地面に顔から倒れ込んだ。

魂がまだこの身体に慣れていないのか?

不用意な行動で女の子を怖がらせてしまったことを反省しつつ、俺は改めて周囲を確認する。



「………………」



杉のような樹木が見渡す限りに立ちならび、その下には見るからに雑草っぽいのもあれば食べられそうな山菜っぽい植物が群生している。

どうも俺が寝ていたのは山奥の獣道のようだ。

女の子が走り去って行った方向を見ても、逆の方向を見ても木々しか見えない。

ゆっくり立ちあがり今度は自分を確認する。



「!」



見慣れない目線の高さだ。

女だった頃と比べても結構高いし、死装束からはだけて見える太ももも引き締まっていて太い。

身長は180cmは越えてる気がする。

しかし転移しても死装束のままだとは……こっちの世界では死装束扱いじゃないことを願いたい……。



「あ〜あ〜あ〜」



うん。ちゃんと男の声だ。

自分の言葉が男の声で聴こえるっていうのは何かまだ違和感を感じる。

興味本位で喉仏も触ってみる。


何これ……中で動いて気持ち悪っ……男ってこんなもの喉に入れてるんだ……固いような軟らかいような…………えいッ。



「ぐふッ!がは!う…ッ!」



どうやら押さない方がいいみたいだ。

顔立ちはまだ分からないけど男になってるのは分かったし、も確認してみる。



「……ッ!?えぇッ!?」



俺は自分のアレを見て驚いた。

こんなの……今まで見たことが無い……!


ちょっと……え……?何?えぇ?嘘?だってまだ普通じゃないの?普段でこれなの!?


女だった頃は苦労しかなかったあのEカップのおっぱいも、男目線だとこれくらいエロく見えたんだろうなぁ………と今なら思えるほどの立派なものが生えていた。



「失ってから気付く大切なもの……か……」



もう前世のことは仕方ない。

今はもう立派な男だ、気持ちを切り換えよう。

それに自分の下半身を見てニヤニヤしてる男が居たら気持ち悪いし。



「よし!ひとまず町だ!」



一番近くの町までどれくらい離れてるのか分からないし、こんな身なりで日が暮れたら大変だ。

お金は持ってなかったけど町に行けば冒険者ギルド運営の簡易宿泊所とかあるだろう、きっと。


この先のことも考えなきゃいけない。


転移特典で俺が手に入れたのは『肉体』『身体能力』『魅力』なわけだが、この世界の人間対してどれほど有効なんだろうか?

三國連太郎の色気は伝わるのか?

堀口恭司の格闘センスは?

誰のか分からない魅力は響くのか?

アミさんはそこら辺のことを考慮してこの世界を選んでくれたのか……?んん…?いや…あれ…?ひょっとして逆だった?世界を選んでから特典決めてなかったっけ…!?



「………………」



いろいろ考えながら歩いていると、魂が身体に慣れてきたようで周りを観察する余裕も出てきた。

日本で見たような植物もあれば、見るからに奇想天外な怪しい植物もある。

怖くて近付けなかったけどポケモンで見た巨大な食虫植物っぽいのも何度か見掛けたし、何よりも先ほどから見渡す限り奇妙な植物が群生している……。


立ち止まって1本抜いて見た。



「……マンドラゴラだったりして……」



マンドラゴラだった。



「ゔお゙あ゙ああああああ゙!!!!!」



目を開きかけたマンドラゴラを投げ捨てると、俺は野太い声を上げながらダッシュで駆け出した!

引き抜かれたマンドラゴラの悲鳴を間近で聞いた人間は発狂して死に至るという伝承通り、後ろのほうでは『ギィャヤア!!』という人間のような悲鳴が聞こえる!


あれ……今走って踏みつけてる草も同じ形をしてるような気が……。



「い゙や゙あ゙ああああああ゙!!!!!」



間違いない……間違いない!

俺が今いるここは異世界だ!

女の子が着物みたいな服を着ていたから一瞬疑ったけど、これで確信が持てた。

ここは異世界だ!

怖すぎて見なかったことにしてたけど、こうして逃げてる途中にも食人木しょくじんぼくっぽいのがいたし!

なんなら人間っぽいミイラに絡み付いてたし!


マンドラゴラの群生地を抜けるとほどなくして俺は切り拓かれた高台に辿り着いた。



「おぉ~………おおお~~~ッ!!」



高台から見渡した上空には日本で見ていた月よりも大きな天体が浮かび、遠くには岩肌の険しい山脈が連なっているのが見える。

雲一つない澄んだ空にはドラゴンのような大型生物は確認出来ず、物理学では解明できないような浮かぶ小島もなければ、化学力の象徴である飛行船のような飛行物体も飛んでいない、のどかな雰囲気の異世界だった。



「!」



視線を落とすと平野部に大きな町が見える。

アミさんに伝えた要望通り、中世ヨーロッパのような町を取り囲む城壁も要塞も見当たらない。

レンガ造りの茶色一色の街並みよりも、どこか潜在的な懐かしさを感じる大きな町だ。



「…………」



ここなら親近感が持てそうだ。

大きな街路が十字に通り、碁盤目状に綺麗に整備されているのが一目で分かる。

木々や竹林もあちらこちらに生い茂っていて茅葺きの長屋から瓦葺き・板葺きの木造建築、漆喰塗りの壁、と落ち着いた雰囲気の城下町……。



「………………」



中心部に見えるのは王城かな?

外堀に囲まれた綺麗な曲線を描く石垣と………二の丸…三ノ丸…櫓………あ、あれは天守閣だな……結構大きいなぁ……姫路城みたい………多分だけど王様はいないな……いたとしても殿様だと思う……。



……ドンッ!!


どうやら俺が立っていたのは街道のど真ん中だったようで、随分と急いでいる男が俺にぶつかる。



「こんなトコで突っ立ってんじゃねぇ!!」


「………………」



腹掛けに股下に挟み箱…………飛脚かぁ……。

走って届けるなんて大変だなぁ……。

さっそうと走り去る後ろ姿を見送ると、念願の異世界でテンションの上がった俺は込み上げるこの感動を叫んだ。



「江戸時代すぎるわ!!!!」



*     *     *



俺は僅かな希望を胸に山を下りた。


街道の途中で『山越茶屋』と書かれた茶屋を横切ったけど、それでも俺は僅かな希望を胸に山を下りた。


さっきのは茶屋じゃない……!茶屋風に見えるだけで茶屋じゃない……むしろ文字まで認識出来ることを誉めよう……うん……!そこを誉めよう……誉めるぞ!阿弥陀如来……!


そう思えば何も怖くはなかった。


言語対応能力は基本オプションと言っていたけど、その影響下なのか………明らかに漢字に見えたのはこの際放って置こう……。


そして今……。



「………………」



俺は町の外門を見上げている。


この世界に来て約1時間。

ここに来るまで色々なことが分かった。


まずこの世界のこの土地の住民は、ほぼ日本人顔。

黄色みかかった肌に低い鼻と、温泉好きのローマ人が言う『顔の平たい族』そのものだ。


あとみんな意外と身長が低い。

俺が180cmくらいになってるとすると、道行く人々は肩くらいまでしかなかった。

そのせいだと信じたいが、全員がビックリしたような表情で俺を見て行った。

死装束じゃなくて身長の方に驚いてて欲しい……。


服装はまさしく時代劇そのものだ。

一律に和装ではあるが、特徴の違いから町民、農民、商人と身分の違いが何となく分かった。

今のところ気になるのは、武士らしき姿が見えないと言うこと。

アミさんには冒険者職業がある異世界をリクエストしておいたけど、それが侍っぽい姿だったらどうしよう……。


『顔』『身長』『服装』と、ここまで揃うと完全に江戸時代だが、丁髷や島田髷のような日本髪がいなかったのがせめてもの救いだった。

皆、現代風の自由な髪型をしている。

ボブ・マーリーみたいな流しの三味線弾きがいれば、ダンス☆マンみたいな流しの舞踏家もいたりと、何ともまぁヘアースタイルだけはバラエティーにとんだ異世界だ。


そして今……。



「………………」



俺は町の外門を見上げている……。


箱根の関所みたいな木造の大きな門と、そこから町を囲うように延びる築地塀……。

やっぱり江戸時代過ぎる……。


そんな事を思いながら門をくぐると、大通りと思われる街道沿いには多数の店が軒を連ねている。

旅籠、木賃宿、茶屋、道具屋と……やっぱり江戸時代の宿場感が満載。



「………………」



え……異世界……だよね…?

マンドラゴラいたし……食人木、人食ってたし…。

でもこれ……江戸時代じゃん…?

太秦映画村じゃん…?あれなの?

やっぱり日本人だから?

仏教と神道はこれがベターなの?


自分から西洋以外を希望したわけだけど、ここまで純和風の異世界だと流石にガッカリ感は拭えない。

むしろ今ではあの『阿弥陀三尊が選ぶ!オススメ転移世界50選』は全部和風だったんじゃないのかとすら思う……。

『都会で流行ってるらしいからウチでもやってみよう』的な感じで地方民が流行をマネしたらこんなんなりました……的な感じで間違った方向に進んだ結果を見てるような気がする……。



「…………まぁ…………まぁ……ッ……」



事実は小説よりも奇なり。

アミさんに会ってから異世界に対するイメージが崩れ続けている自分にそう言い聞かせ、とりあえずは冒険者ギルド(仮)の存在を確認しようと、道行く町娘に声を掛ける。



「……あの〜ちょっと尋ねたいんだけど……」


「は―――いィ…!?」



振り向いた瞬間、若い町娘は明らかな動揺を見せた。

何かとんでもない者を見たような表情を見せる町娘……。

一体、俺の何が可笑しいのか……疑問は深まるばかりだったが自分からは聞くに聞けず、とりあえず本題だけ聞いてみる。



「この町に冒険者ギル……職業紹介所……のような場所ってあるかな……?」


「紹介所……ですか……?」


「なんて言うか……こう……いろんな依頼人からいろんな依頼をこなす……こう……熱い魂を持った自由な奴等が集まる場所的な……?」



それが精一杯の解説だった。

異世界だからと言って魔法があるとは限らない。

異世界だからと言ってチート能力が貰えるとは限らない。

冒険者ギルドとはよく耳にするけど、それが当然のように通用するかどうかも分からない世界……。

俺なりに噛み砕いて考えた精一杯の解説だった。

町娘は少し悩みながら言う。



「……冒険者ギルドなやつですか?」


(そこは通じるのかよ!)


「それならこの先の――――」



最初は引いていた町娘だったが、話してみると意外にも丁寧に教えてくれる。

ここから歩いてそう遠くない所に、その冒険者ギルド建物はあるらしい。

ここの世界観は自分の想像とはかなり違うけど、それでもアミさんはやっぱりリクエスト通りの世界を選んでくれているらしい。

世界観はかなり違うけど……。


親切な町娘にお礼を言い、教えて貰った場所を目指して再び歩き始める。


峠から続いていた街道沿いには旅籠などの建物が多かったが、道を反れると住宅が多いようだ。

住宅と言うかどう見ても長屋だけど……。

何人もの通行人とすれ違い、俺はようやく確信する。



「…………ッ……」



俺の服装は明らかに可笑しい。

もれなく全員が好奇の眼差しで俺を見てくる。

チラッと目が合ったオジさんも、ジャッキー・チェン張りの芸術的な二度見を見せて来る。

この世界でも死装束は死装束と言うことなんだろうか……。

自分の異様さが分かると急に恥ずかしくなり、俺は足早に冒険者ギルドへと向かった。


そして町娘に教えられた通り歩き続けると、その大きな建物は見えて来た。

石階段の上に佇む存在感のある大きな瓦葺きの門は、むかし家族旅行で行った福島県で見たあの門にそっくりだ。



「……日新館みたいだなぁ…………ん……?」



門を出入りする男達の姿に釘付けになる。

みんな小袖に袴の羽織姿……。

そして左腰には反った形状の剣を差している……。



「だと思ったッ!」



ここまでくると覚悟は出来ていたけど、予想通りの絵に描いたような侍スタイルだった。

反った形状の剣と言ってはみたけど、どう見ても日本刀だし、男達の出で立ちは完全に『侍』だ。



「……んんッ…?」



近くまで行ってみると、門の上に掲げられている大きな看板に気付く。

そこには太い毛筆でこう書かれている。


『ノルディントート武芸者組合』



「世界観ッ!」



そこは予想外だった。


もう何もかもが可笑しい!

『冒険者』じゃなくて『武芸者』だったし、『ギルド』じゃなくてまさかの『組合』だったし!

しかもそこまで和風を意識してるのに、なんで『ノルディントート』という横文字が入るのか…!

町娘も確かに『冒険者ギルドなやつ』とは言っていたけど、この世界でも通じるなら素直に『冒険者ギルド』でもいいじゃないか……!


素直にそう思った。

そして少しだけ凹む。



「武芸者……武芸者……武芸者かぁ…………ああぁ……今日から俺は武芸者になるのか……」



出来れば冒険者になりたかった……。

目的は違うけど、仮にこの世界に魔王がいたとしよう。

そしてその魔王を倒したとする。

すると俺は後世にこう語り継がれるんだ。


魔王を倒した『伝説の武芸者』……と……。



「語感がッ…!」



やっぱり違う!

『伝説の冒険者』と『伝説の武芸者』ではやっぱり違う!

何かそれだけ聞いたら、ゴリゴリの剣豪をイメージしちゃうし!

道場破りで70余名を一人で討ち取っちゃいそうだし!



「……こんな世界でどんな物語をしろと……」



最近の日本のラノベにおける異世界のイメージはなぜ中世ヨーロッパなのか……その理由を体感しながら俺は組合の門を叩いた。

そう…組合の門だ……。



「!」



建物の内部は案の定、酒場を兼ねた造りだった。

向かって正面には酒場のテーブルが所狭しと並び、その奥にはカウンター。

組合の受付は右奥のようだ。

20人近い男達が昼間から酒盛りをしていたが、俺の存在に気付くと皆信じられないような眼差しで見つめて来た。



「……ッ……」



痛烈な視線と静まり返った中に聴こえるヒソヒソ声に当てられながら、俺は平静を装い受付へと向かう。その途中……。



“ おい ”


「!」



一人の男に呼び止められた。

ボサボサ頭で眼帯をした中年の男は、手に持ったお猪口をテーブルに置くと、鋭い目付きで俺を見上げてドスの効いた声で言う。



「……見ねぇ顔だな…………本気か……?」


「!」



『本気か?』

一体何に対して『本気か?』なんだろうか?

どう答えたら正解なのだろう?

少し考えるも、とりあえず俺は迷わず答えた。

答えなんて決まっている。



「……ああ、本気だぜ……?」


「!」


「一度死んでる人間の覚悟をナメるなよ」

 


ニヤリと笑みを浮かべる俺。

こういった場所では最初が肝心だ。

おどおどしてナメられるわけにはいかない。

すると眼帯の男は俯きながらニヤリと笑った。



「……まだお前みたいな野郎が居たとはな…………この町もまだまだ捨てたもんじゃねぇな……」


「?」


「いいぜ。お前の覚悟、見せてみろよ」


「ああ……大人しく見てな」


「フッ……生意気な野郎だ」



右手を差し出され、俺は眼帯の男と力強い握手を交わした。

余計な言葉はいらない。

これは目と目で語り合う、熱く自由な男達の暗黙の意志疎通だ……。



(…………なんか……)



異世界っぽい!

数々のクエストで功績を上げ、地元を知り尽くす歴戦の猛者!

その優れた観察眼で、一目でよそ者と分かる男にただならぬ可能性を見出だし、その駆け引きに全く動じず余裕の笑みで応じるよそ者、俺!

異世界っぽい!



「!」



眼帯の男が認めたことで、周りの男達の俺を見る目が変わったのが分かる。

一目置き、警戒はしながらも温かく見守るような視線だ。

地元民と上手く馴染めるかどうか少し不安だったが、ひとまずはばかれること無く受け入れられた俺の異世界生活の出だしは及第点だろう。


そして迷わず受付に向かう。



「武芸者登録したいんだ……け………ど………」


「…………ッ…………」



受付にいた女職員は心ここにあらず。

伏し目がちにソワソワしながら、チラチラと俺を見上げている……。



(……大丈夫かな……?)



具合が悪そうに見えるその様子を心配すると、女職員は顔を赤らめながら口を開いた。



「……いやらしい人ですね……」


「はい?」


「でも……その……私でいいんですか……?」


「はい?」



照れながら甘い吐息を洩らしてモジモジする姿は可愛い……が……全く意味が分からない。

そんな俺の態度が逆に火に油を注いだのだろう……女職員は更に顔を赤くさせ涙目で言う。



「……本当ッ……エッチい人なんですねッ…………そんなに言わせたいんですかぁ……ッ……艶装束つやしょうぞくなんて着てるのに……」


(艶……装束……?死装束じゃなくて?)


「……これ以上言わせないで下さい……ッ……私……恥ずかしいです……ッ……」



身体をよじらせながら両手で太股を押さえる女職員……。

こんなにも恥ずかしがる女の子の背中を押すには、あれしかない。

『艶装束』の意味を知りたい俺は女職員の顎をクイッと軽く上げ、低めの声で囁く。



「……ハッキリ言えよ。お前の口から……」


「ああァ…ッ!」



『壁ドン』と双璧をなす胸キュンアクション『顎クイ』

効果はてきめんだ。

身体をビクンと仰け反らせた女職員が、涙目で許しを請うように言う。



「……艶装束は……ッ……『俺に抱かれたい女は来い。いつでも孕ませてやるぜ』って意味じゃないですかぁ……ッ……だからぁ………ッ」


(!?)


「……いいですよ…私でよければ……今夜…ッ」


「…ッ… !!」



何その風習~~ッ!!?

全然違った!全然違った!!

死装束じゃなかった!!

とんでもない意味の装束だった!!

こんな格好で町娘に話し掛けたら『今夜、俺と交わろうぜぇ?』って意味になるよ!

そりゃあんなリアクションもするよ!!


俺はようやく今まですれ違った人々の反応に合点がいった。

ものすごくとんでもない男に見える……。

初々しい恥じらいを見せる女職員の愛の告白に、酒場中の男共からは拍手喝采が沸き起こる。



“いぇえええぇ~~~い!!!!”


“ナズナのあんな顔初めて見たよ!!”


“ちくしょぉッ……俺のナズナちゃんがぁッ……”


“明日は休みか~ッ?ナズナ~!!”



「や、やめて下さい…ッ……」



盛り上がりを見せる酒場と、顔を赤らめながら照れ続ける女職員。

この世界では一大イベントのようだ。

最初に声を掛けて来た眼帯の男もニヤリと笑う。



「ったく……さっそく魅せつけやがるぜ。あの野郎…………フッ……」



この世界には『艶装束』という一風変わった風習がある。

異性への性交渉を表現するその服装の特徴は純白の和装。

『俺は誰でも受け入れる』という強い想いを男達はその白さに託す。

そこは日本によく似た世界で、それでいて日本とは全く異なる特異な文化を持つ新しい世界。


その世界に転移した俺は叫ばずにはいられなかった。



「聞いてた異世界と違〜〜〜うッ!!」




聞いてた異世界と違う!【完】

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聞いてた異世界と違う! やなぎシアン @yanagi-shian

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