第42話 波乱の合同合宿(トレーニング・キャンプ)は、潮風の香りがする

「……合同、合宿……ですって?」


駅前のカフェ。あの日、白バラ女子学園の少女――名前を白鳥(しらとり)さくらという彼女が差し出したのは、ラブレターではなく、正式な『合同合宿の招待状』だった。背後の席で聞き耳を立てていた三人の女帝が、一斉に身を乗り出す。


「はい! 先日の試合での佐藤さんの勇姿……あの、泥臭くも真っ直ぐな拳に、うちの部員全員が心を打たれたんです!

是非、夏休みに私達の学園が所有する海辺の合宿所で、お手合わせをお願いしたくて……!」


さくらさんは目を輝かせて僕の手を握ろうとする。だが、その手が僕に触れる寸前、三つの影が僕と彼女の間に割り込んだ。


「話は聞かせてもらったわ。私はボクシング部顧問(代理)の氷川冴。

この話、慎重に検討させてもらうわね」


「姉さん、検討も何も海だぞ! 合宿だぞ!

恋愛教本第700章、『波打ち際の特訓は、吊り橋効果で愛の火力を最大にする』だ!! 行くしかないだろう!!」


「凛さん、少しは落ち着きなさい。でも、白バラ女子学園の合宿所は、最新のトレーニングマシンとプライベートビーチが完備されていると聞くわ。佐藤君の『実戦経験』を積むには、悪くない環境ね」


三人の意見が、珍しく行く方向で一致した。

もちろん、その裏には「佐藤君に水着で迫るチャンス」だの「他の女に手を出させない監視」だのといった、不穏な思惑が渦巻いているのは明白だったけれど。


一週間後。僕たちは、青い海と白い砂浜が広がる南の島……ではなく、県内の有名な避暑地にある白バラ女子学園の合宿所にいた。


「わあ……すごい。本当に目の前が海だ」


僕が感激していると、背後から凄まじい殺気が飛んできた。


「少年。海に来たからといって、浮つかないことね。まずは、リハビリを兼ねた『ビーチ・ランニング』から始めるわよ。……もちろん、私の隣でね」


冴さんが、普段のスーツ姿からは想像もつかないような、タイトなスポーツウェア姿で現れた。

体のラインが強調されすぎていて、僕はどこを見ていいか分からない。


「待った! 海といえば、まずは『水慣れ』だろう! 佐藤君、さあ、一緒に海へ飛び込むぞ!!」


凛先輩は、既に制服の下に水着を仕込んでいたのか、一瞬で情熱的なビキニ姿になって僕の腕を引っ張る。


「二人とも、筋肉脳ね。海辺の強い紫外線は肌の天敵よ。佐藤君、私が特製のサンオイルを塗ってあげるから、こっちに来てちょうだい」


リサは、これまたモデルのような洗練されたパレオ付きの水着で、手招きをしている。


「あ、あの……白バラの皆さんと挨拶するのが先じゃ……」

「「「そんなことより、誰と海に行く(選ぶ)の!!?」」」


合宿開始からわずか十分。

砂浜には、ボクシングのリングよりも過酷な、女帝たちの『陣取り合戦』のゴングが鳴り響いていた。

そんな中、白バラ学園のさくらさんたちが、お揃いの水着姿でこちらに手を振っているのが見えた。


「佐藤さーん! 準備できましたよー!」


「……少年。あの娘たち、随分と積極的ね。徹底的に『教育』が必要なようね」


冴さんの瞳が、再び絶対零度の冷たさを取り戻す。


「ああ、同感だ姉さん。佐藤君に鼻の下を伸ばさせるわけにはいかないからな」

「データ収集の必要がありそうね。佐藤君、あなたは私の後ろから一歩も出ないでちょうだい」


……これ、合宿っていうか、僕を巡る『防衛戦』になってないだろうか。

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