第40話 静かなる宣戦布告(ラブレター)と女帝たちの緊急徴収
「……これは、何かしら」
放課後の部室。
その冷ややかな声の主は、氷川冴さんだった。彼女の指先には、淡い水色の封筒が挟まれている。
そこには、丁寧な文字で『ボクシング部・佐藤悠真様』と書かれていた。
「えっ、僕に……? あ、それ、さっき下駄箱に入ってたやつです」
僕が呑気に答えた瞬間、部室内の温度がマイナス30度まで急降下した。
「……少年。貴方は、自分がどれほどの立場にいるか自覚しているの?」
「そ、そうだ佐藤君!
練習試合で北門工業の狂犬を倒した君の噂は、今や近隣の高校にまで広がっているんだからな!」
凛先輩が僕の肩を掴んで激しく揺さぶる。
その瞳には、かつての試合直前のような戦士の光が宿っていた。
「リサ、解析を」
「了解よ、冴さん。筆跡、封筒の質、そしてほのかに残るこの香りは隣町の『白バラ女子学園』の指定便箋ね。内容は『先日の試合での勇姿に感動しました。今度、駅前のカフェでお話しできませんか?』典型的な、そして最も危険なラブレターだわ」
リサがタブレットを高速で叩き、相手の背景を割り出していく。その間、僕は三人の女帝からの無言の圧に、ただただ小さくなっていた。
「……白バラ女子学園。お嬢様学校として有名だが、あそこにはボクシング部の女子マネージャー連合があるという噂だ。佐藤君を『広告塔』として引き抜くつもりかもしれないぞ!」
「あり得るわね。佐藤君、あなたは私たちの『資産』なのよ。外部への流出は絶対に認められないわ」
「少年。そのカフェへの誘い、まさか受けるつもりではないわね?」
冴さんが、僕の目の前で封筒をゆっくりと、しかし確実な力でシュレッダーへと運ぼうとする。
「あ、あの、冴さん! とりあえず、返事くらいは書かないと失礼じゃ……」
「「「却下!!!」」」
三人の声が完璧に重なった。
「これは宣戦布告よ。聖華ボクシング部に対する、明確な領空侵犯だわ」
リサが眼鏡をクイと押し上げる。
「こうなれば、相手を特定し、その『真意』を暴く必要があるわね。凛さん、冴さん。今日から三日間、特別捜査網を敷きます!」
「よし、分かった! 恋愛教本第600章、『恋の火種は、煙が出る前に水没させろ』だ! 佐藤君、今日から君の登下校は、私たちが完全ローテーションで護衛(監視)する!」
「……少年。私のリハビリメニューに、『尾行技術の習得』を加えさせてもらうわ」
「ええええっ……!?」
僕の平和な放課後は、一通のファンレターによって、再び激動の渦へと巻き込まれてしまった。
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