第39話 買い物(スカウティング)は、戦火の香りがする

地獄のランチタイムをなんとか生き延びた放課後。

結局、『リハビリ』という大義名分を掲げた冴さんの権力に押し切られ、僕は彼女の買い物に付き合うことになった。……はずだった。


「……なぜ、貴方たちがここにいるのかしら」


ショッピングモールのエントランス。冴さんが、冷たい視線で隣の二人を射抜く。


「いやぁ、姉さん! 私もちょうど、新しい恋愛教本……じゃなくて、トレーニングウェアが欲しかったんだ!」

「偶然ね、冴さん。私も最新のデータ分析ソフトを買いに来たところなの。……あ、佐藤君。荷物持ちなら任せてちょうだい?」


凛先輩とリサが、不自然な笑顔で僕の左右をがっちりとガードしている。

周囲の買い物客たちが、「何あの美少女軍団……」という驚きと羨望の眼差しを向けてくるが、当の僕は生きた心地がしない。


「いいわ。……どうせ追い払ってもついてくるのでしょう。……少年、行きましょう」


冴さんは溜息をつき、僕の腕をスッと取った。


「「ああっ!!」」


凛先輩とリサの悲鳴が上がるが、冴さんは涼しい顔で歩き出す。

向かったのは、スポーツ用品店……ではなく、まさかのレディースファッション・フロアだった。


「ね、姉さん!? ここはボクシングと関係ないんじゃ……」


「リハビリだと言ったはずよ、凛。……戦うためだけの自分から、少しずつ『日常』を取り戻すためのね。少年。……この服、私に似合うかしら?」


冴さんが鏡の前で手に取ったのは、普段の彼女からは想像もつかないような、淡いピンク色のワンピースだった。


「えっ……あ、はい。すごく、綺麗だと思います」


僕の正直な感想に冴さんの頬がふっと朱に染まる。


「……そう。なら、これを買うわ」

「待ったあぁぁ!! 姉さんにそんな可愛い系は似合わないぞ! 佐藤君、こっちの情熱的な赤いドレスはどうだ!? 私とお揃いでもいいぞ!」

「ナンセンスね。佐藤君の好みは、もっと知的で洗練されたネイビーのタイトスカートよ。ほら、私が試着してあげるから、しっかり見ていて!」


そこからは、阿鼻叫喚の試着大会が始まった。

次々とカーテンが開閉され、着替えた三人の女帝が現れるたびに僕は感想(ジャッジ)を求められる。


「佐藤君、このショートパンツはどうだ!」

「こっちのシースルー、どうかしら?」

「……少年。……あまり、他の女を見ないでちょうだい」


……幸せなはずなのに、胃のあたりがキリキリと痛む。これが、僕が守り抜いた『平和な日常』の代償だというのなら、代償が大きすぎる気がした。

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