第24話 尾行(チェイス)の放課後は、恋の嵐と共に

「……条件、だと?」


凛先輩が低い声で呻く。掴んでいた僕の腕に、ぐいと力がこもった。

月明かりの下、リサは不敵に微笑み、手にしたボイスレコーダーを弄んでいる。


「ええ。この『深夜の密会指導』を冴さんに報告されたくなければ明日の放課後、佐藤君を私に貸して。二人きりのデート……いえ、実地見学をさせてもらうわ」


「な、……ななな、何を言っている! 練習はどうするんだ!」


「練習なら昨日もしたわ。たまには彼の精神状態を分析する必要があるのよ。それとも凛さん、部が廃部になってもいいのかしら?」


「ぐ、ぬ……っ」


結局、凛先輩は屈辱に震えながらも、その条件を飲むしかなかった。


翌日の放課後。

僕はリサに連れられ、駅前のショッピングモールにいた。


「佐藤君、そんなに緊張しなくていいわ。

今日はあなたの『動態視力』を鍛えるために、映画とショッピングをハシゴするだけよ」


リサはいつもの冷徹な制服姿ではなく、透け感のあるブラウスに短いスカートという、いかにもフランス帰りの令嬢然とした私服姿だった。


腕を自然に組まれ、柔らかな感触が伝わるたびに、僕の心拍数はオーバーワーク気味になる。


(でも、これ絶対に無事じゃ済まない気がする)


僕の予感は的中していた。

十メートルほど後ろ、大型の観葉植物の影。

使い古されたトレンチコートに身を包み、深く被った帽子とサングラス、さらには新聞紙に穴を開けて覗くという、昭和の刑事ドラマのような格好をした怪しい人物がいた。


「……佐藤君、デレデレしおって。

恋愛教本第120章『敵地での浮気は、即座にボディブローの対象となる』だぞ。

絶対に許さん、あの金髪め……!」


ブツブツと呪文のように教本を唱えながら、隠れる気があるのかないのか分からない挙動で追いかけてくる凛先輩。


「あら、佐藤君。あのアイスクリーム、美味しそうじゃない? あっちのベンチに座りましょうか。

もちろん『密着』して」


リサは背後の視線に気づいているのか、わざと僕に寄り添い、耳元で甘い声を出す。

その瞬間、後ろで『ミシッ』と、プランターの縁が握り潰される音が聞こえた。


「リ、リサさん、そろそろ戻らないと練習が……」


「いいじゃない。今日は冴さんも出張でいないし。……ねえ、佐藤君。凛さんみたいな武骨な女より、私の方がずっと『指導』してあげられることがたくさんあると思わない?」


リサが僕の顔を両手で挟み込み、顔を近づけてくる。鼻先が触れそうな距離。

リサの香水の香りが脳を痺れさせる。


「――そこまでだ、貴様らッ!!」


ついに耐えきれなくなったトレンチコートの怪人が、サングラスを投げ捨てて飛び出してきた。


「リサ、離れろ! その男は……その男は、私の大事な……大事な『素体』なんだぞ!!」


「あら、やっと出てきたわね。でも凛さん、これでお相子よ。さて、ここからは『三人』で楽しみましょうか?」


リサの瞳にいたずらな光が宿る。

ショッピングモールのど真ん中で、金髪の令嬢と、トレンチコート姿の女帝に挟まれた僕。

合同練習会を前に、僕の体力より先に精神力がゼロになりそうだった。

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