第22話 二人の女帝と僕のサンドバッグな日常
退院後、登校初日。
僕を待っていたのは全校生徒からの畏怖の視線と、部室で火花を散らす二人の女帝だった。
「……遅いぞ、佐藤君! 病み上がりの足腰を鍛え直すため、今日は私の『特製・恋愛プロテイン』を用意しておいた。さあ、飲め!」
「あら、凛さん。そんな不衛生な色の液体、彼に飲ませるなんて正気?
フランスの最新スポーツ科学に基づいた、こちらのサプリメントの方が彼には相応しいわ」
部室のドアを開けた瞬間、凛先輩とリサが、それぞれ毒々しい紫色のシェイカーと、銀色に輝く錠剤を僕の鼻先に突きつけてきた。
「ちょ、二人とも……落ち着いてください」
「「落ち着いていられるか(いられるわけないでしょう)!!」」
ハモった二人が互いを鋭く睨みつける。
金髪をポニーテールにまとめ、聖華高校の制服に身を包んだリサは、驚くほど周囲に馴染んでいた。
その、圧倒的な強者のオーラを除けば。
「凛さん、勘違いしないで。
私は別に、彼と仲良くしたいわけじゃないわ。ただ、あなたの『育成力』が低いから、私が代わりにこの原石を磨いてあげようと言っているのよ」
「ふん、育成力だと? 佐藤君は私の『恋愛教本』と『氷川流・地獄の特訓』で、ここまで成長したんだ。外来種に口出しされる筋合いはない!」
先輩が僕の腕をギュッと抱き寄せ、自分の胸元に引き寄せる。
「彼は、私のパートナーだ!
髪の一本、指の一本まで、ボクシング部の共有財産……いや、私の専属なんだ!」
「……共有財産? 面白いわね。なら、奪い取る甲斐があるというものよ」
リサが不敵に微笑み、僕の反対側の腕を掴んだ。
「ひ、二人とも、引っ張らないで……肩が、肩が外れる……ッ!」
その時、部室の空気が一瞬で凍りついた。
「――賑やかね。部費を削られたいのかしら、貴方たち」
入り口に立っていたのは、生徒会長・冴さん。
彼女は冷徹な視線で僕ら三人を見回すと、手にした書類を机に叩きつけた。
「凛。リサ。そして少年。新学期のボクシング部には、ある『ノルマ』を課すわ。今月末に行われる近隣校との合同練習会。そこで、少年が『全勝』すること。もし一回でも負けたら、ボクシング部は廃部。凛、貴方の『パートナー』としての権利も剥奪して、リサに譲渡してもらうわ」
「……なっ、姉さん! そんなの無茶苦茶だ!」
「無茶ではないわ。二人の『女帝』に指導される男なら、それくらい当然でしょう?」
冴さんは僕の顎を指先でクイと持ち上げ、残酷に微笑んだ。
「少年。貴方の体は、もう貴方一人のものではないの。二人の愛と怒りをその拳に乗せて、証明してみせなさい。貴方が、誰の『所有物』なのかをね」
左右から腕を引かれ、正面からは絶対零度の視線。
僕の波乱の新学期は、文字通り『命がけ』のゴングと共に幕を開けた。
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