第21話 氷解(メルト)の金髪は、リング外の宣戦布告

「……さて。どうやら、随分と仲睦まじいようね」


不格好な林檎を食べ終え、僕が先輩の手に触れて眠ってしまった直後。

病室のドアが、ノックもなしに開けられた。

そこに立っていたのは、包帯で頭の一部を巻いているものの、顔色はすっかり回復した金髪の少女――リサだった。


「リサ!? なぜここに! まさか、昨日の借りを今ここで返そうと! 病人を相手に卑怯な手だぞ!」


先輩は反射的に立ち上がり、僕を庇うように構えた。だが、リサは肩をすくめて、優雅に微笑んだ。その表情は、リング上での冷酷な挑戦者のものではなく、どこか憑き物が落ちたような柔らかさを帯びている。


「ご心配なく、凛さん。これ以上、あなたと拳を交えるつもりはありません。少なくとも、当面はね。私が見たいのは、あなたではなく、そこの……

『腑抜けな少年』の方よ」


リサの視線が、僕に向けられる。

昨日はあんなに僕を馬鹿にしていたのに、なぜだろう。その青い瞳には、好奇心と、かすかな敬意が混ざり合っていた。


「……君、佐藤君といったかしら。

昨日は、私の連れてきたジャンにあんなにボロボロにされて。なのに、凛さんに『悲しい顔で殴らないで』と甘ったるい言葉を吐いて……」


リサは僕のベッドサイドに近づき、その金髪を揺らしながら僕の顔を覗き込んだ。


「私には理解できないわ。

恐怖に打ち震え、痛みで意識を失いかけていたはずなのに、どうしてそんな言葉が出るのか。

……私の『ボクシング論』では、説明がつかない」


「リサ! 佐藤君に近づくな! 私のパートナーは、君の『変態的興味』の対象ではないぞ!」


先輩が僕の前に立ちはだかり、リサを牽制する。

リサは楽しそうにクスクスと笑うと、先輩の肩越しに僕に語りかけた。


「ねえ、佐藤君。あなたのその、不思議な『精神力』。もしよろしければ、私もその『教本』について、教えてもらえないかしら?」


「……えっ?」


僕が戸惑っていると、リサはさらに続けた。


「私、今度の休み明けから、この聖華高校に正式に転校することになったの。もちろん、あなたたちと同じボクシング部に入部するわ」


「な……ッ!?」


先輩が絶句した。


「そんな馬鹿な! お前はキックボクシングの選手だろう! なぜ、ボクシング部に……!」


「決まっているでしょう?

あなたの隣にいるこの少年の、謎を解き明かすためよ。……そして、いつか彼を奪い取り、私の『新しいボクシング』を完成させるためにね」


リサは不敵に微笑むと、僕に向かって、はっきりと告げた。


「佐藤悠真君。あなたは、私の新たな『ライバル』よ。そして、いずれ私の『パートナー』となる」


金髪の刺客は、リングの外で、僕の心に向けて新たな宣戦布告を放ってきた。

先輩は顔を真っ赤にして震え、リサを睨みつける。僕の入院は、むしろ新たな波乱の幕開けとなったようだった。

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