第16話 メイド・オブ・鉄拳(アイアン・メイデン)は、宣戦布告と共に
合宿から帰還した僕たちを待っていたのは、平穏な日常……ではなく、二学期のビッグイベント『聖華祭(文化祭)』という名の新たなリングだった。
「いいか佐藤君。文化祭とは、我が部の存在を全校生徒に知らしめ、新入部員という名の戦力を確保するための聖戦だ。そして、恋愛教本第62章によれば――『非日常的な衣装(コスチューム)は、隠れた恋情を強制的にバーストさせる』とある」
部室の机には、凛先輩が用意した(あるいは冴さんに無理やり渡された)一着の衣装が置かれていた。フリルとレースが何層にも重なった、黒と白のクラシックなメイド服だ。
文化祭当日。
「……お待たせ、佐藤君。その、何だ。……似合っていないなら、今すぐこの衣装を粉砕してくるが」
更衣室から現れた先輩を見て、僕は持っていたメニュー表を落としそうになった。いつもポニーテールで結び上げている髪を、今日はハーフアップにして白いヘッドドレスを乗せている。凛々しい顔立ちがメイド服の可愛らしさと化学反応を起こし、破壊的な『ギャップ萌え』を生み出していた。
「……っ。せ、先輩、めちゃくちゃ似合ってます。……というか、綺麗すぎて直視できません」
「……ッ!! そのカウンター気味の称賛をやめろと言っているだろう! 心拍数がオーバーワークだ!」
先輩が顔を真っ赤にして僕の胸板をポカポカと叩いていると、不意に廊下の喧騒が止まった。
「――あら、随分と滑稽な姿ね、凛」
現れたのは、合宿でも僕たちを震撼させた生徒会長・冴さん。そして、その後ろには見たこともない美少女が立っていた。
ウェーブのかかった艶やかな金髪に、吸い込まれそうなほど冷たい青い瞳。彼女は僕を一瞥すると、鼻先で笑った。
「冴さん。これが、凛さんが執着している『パートナー』ですか? 期待外れもいいところです」
「……リ、リサ!? どうしてここに!」
先輩がメイド服のまま、反射的にボクシングの構えを取った。リサと呼ばれた金髪の少女は、優雅な所作で一歩前に出る。
「中等部時代、あなたの右ストレートに屈した屈辱を忘れた日はありません。私はあなたを倒すためだけに、フランスから戻ってきました。……なのに、ボクシングを捨ててメイドごっこなんて」
リサは僕を細い指で指差した。
「そこのあなた。凛さんを腑抜けにした罪は重いわよ。冴さんから聞きました。今度の文化祭のメインイベント『格闘技トーナメント』にあなたも出るんですって?」
「えっ、聞いてませんけど!?」
「今決めたわ」
冴さんが冷酷な微笑みを浮かべる。
「ボクシング部の予算と存続。そして、凛の隣に座る権利。それらをすべて賭けて、リサと戦ってもらうわ。もちろん、凛もね」
「……っ、上等だ!」
先輩が僕の前に立ち、金髪のリサを鋭く睨みつけた。
「佐藤君は、私が育てた最高のパートナーだ。リサ、お前の『フランス仕込みのキックボクシング』でも、私たちの絆は崩せないぞ!」
「……絆、ですか。面白いわ。その甘い幻想ごと、マットに沈めてあげます」
メイド服の女帝と、フランス帰りの金髪の刺客。
文化祭の喧騒の裏で、僕のパートナーとしての真価を問われる、新たな激闘のゴングが鳴り響こうとしていた。
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