第6章 悪魔の証明

夜だった。


都市の灯りが、点在する星のように地表を彩っている。

その上空に立つハヤタは、風を受けながら、ただ静かにその光景を見下ろしていた。


自分がこの世界に来てから、まだそれほどの時間は経っていない。

それでも、この惑星は確実に変わりつつあった。


怪獣が現れ、破壊があり、そして——銀色の巨人が、それを止めた。


だが、それは本当に「救い」なのか。


「……相変わらず、思い悩む顔だな」


背後から、声がした。


振り返るよりも早く、ハヤタは理解していた。

その声の主を。


闇の中から、一人の巨人が姿を現す。


銀ではない。

漆黒の宇宙服。その表面を、脈動するように紫色のラインが走っている。

顔部のマスクは閉じられ、感情の読めない無機質な光を湛えていた。


「……メフィラス」


かつて《スペースM-78》でそう呼ばれていた男。

皆が冗談半分につけたあだ名。

だが今、その名は、この惑星において“災厄の思想”そのものを体現していた。


「まだ、その名で呼ぶのか?」

メフィラスは小さく笑った。

「ならば君も、ハヤタ。救世主気取りのままでいい」


ハヤタは拳を握りしめた。


「何が目的だ」


「決まっている」

メフィラスは両手を広げ、都市を見下ろす。

「証明だよ。――君が間違っているという証明だ」


紫のラインが、強く発光する。


「君は言ったな。この惑星を守るのは、自分たちが技術を持ち込んだ責任だと」

「だが、それは偽善だ」


ハヤタは即座に反論した。


「責任から目を背けるより、遥かにましだ」


「違う」


メフィラスは即座に言い切った。


「責任とは、結果を管理することだ。

 だが君は、感情で守っているだけだ」


彼は一歩、前に出た。


「この惑星の文明は、未熟だ。

 生態進化技術を与えれば、怪獣を生み、兵器を作り、やがて互いを滅ぼす」


「それでもだ」


ハヤタの声は低く、だが揺るがなかった。


「彼らは、自分たちで選ぶ権利がある。

 俺たちが奪っていい理由にはならない」


「ファウストも同じことを言った」


メフィラスは、どこか愉しげに言った。


「知を求め、可能性に手を伸ばし、その代償を払う。

 ——悪魔とは、選択肢を与える存在だ」


次の瞬間、空気が爆ぜた。


メフィラスが、動いた。


黒い巨体が加速し、拳がハヤタの胸部を打ち抜く。

衝撃が都市上空に衝撃波を生み、ビル群が一斉に軋んだ。


ハヤタも応じる。

拳と拳がぶつかり、重力が悲鳴を上げる。


肉弾戦。

互いに一歩も引かない。


「君は守ると言うが!」

メフィラスが叫ぶ。

「守った先で、彼らが何をするかまで背負えるのか!」


「背負う!」


ハヤタは吼えた。


「それが、俺たちの選んだ道だ!」


二人の距離が開く。


次の瞬間、同時に腕を掲げた。


白銀と、紫。


空気中のエネルギーが収束し、空が歪む。


スペシウム光線。


二条の光が、真正面から激突した。


轟音。

夜空が昼のように照らされ、都市全体が白く染まる。


拮抗。

だが、わずかに——メフィラスの光が揺らいだ。


「……なるほど」


メフィラスは笑った。


「君は、強い。だが——」


紫のラインが、一斉に消える。


その瞬間、ハヤタは“違和感”を覚えた。


「——遅い」


メフィラスの姿が、霧のように揺らぐ。


空間転移。

いや、それだけではない。


遥か地平の向こう、地殻深部から——

理解を拒むほどのエネルギー反応が、静かに立ち上がっていた。


「何をした……!」


「起動しただけだ」


消えゆく声が、夜に残る。


「Z.E.T.T.O.N.

 君たちが“開拓”と呼んだ、その答えだよ」


次の瞬間、メフィラスの姿は完全に消失した。


残されたハヤタは、腕を下ろし、遠くの大地を見つめる。


そこから放たれる、不吉な鼓動。


——これまでの怪獣とは、違う。


技術の暴走でも、偶然でもない。

目的を持った存在。


ハヤタは、理解した。


これはもう、守るか否かの問題ではない。


人類が持ち込んだ“未来”そのものと、向き合う戦いだ。


夜空の彼方で、見えない何かが、静かに目を開いた。


悪魔は、すでに証明を始めている。

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