第4章 研究者の逸脱
巨大災害――怪獣と呼ばれる存在が、この惑星に現れるようになった理由について、軍も科学者たちも確証を持っていなかった。
だが、ハヤタには分かっていた。
原因は、彼ら宇宙飛行士が持ち込んだ生態進化技術だ。
軍の研究施設の外れ、隔離区域に設けられた観測所。
ハヤタはそこから、惑星の森を見下ろしていた。巨大化した樹木の枝が絡み合い、まるで意志を持つかのように風に揺れている。
――すでに、始まっている。
その夜、軍の監視網に奇妙な反応が現れた。
怪獣の出現ではない。だが、生体反応が「人型」でありながら、明らかに人間のものではない数値を示していた。
ハヤタは直感的に理解した。
「……ダダだ」
かつて同じ船に乗っていた、研究一筋の宇宙飛行士。
仕事には異様なほど忠実で、対人関係を極端に避け、任務の成否だけを価値基準にしていた男。
軍の案内で向かったのは、都市郊外の廃棄研究施設だった。
内部は荒らされ、装置の多くが持ち去られている。
そこに――いた。
異様に引き伸ばされた体躯。
歪んだ頭部、無機質な目。
だが、その動きと声は、確かにかつての仲間のものだった。
「データが足りない」
ダダは、淡々と告げた。
「この惑星は、非常に興味深い。文明水準、生態系、社会構造……すべてが中途半端だ。だからこそ、実験に向いている」
「……住人も、か?」
ハヤタの問いに、ダダは一瞬だけ沈黙した。
「サンプルだ。例外ではない」
ハヤタは一歩前に出た。
この惑星の人々と交わした言葉、恐怖と期待の入り混じった視線が脳裏をよぎる。
「それは、ミッションを逸脱している」
「違う」
ダダの声が、わずかに荒れた。
「ミッションは“開拓”だ。未来のための犠牲は、常に必要だ。君は感情に引きずられている」
「――だから止める」
次の瞬間、ダダが動いた。
研究者とは思えぬ速度で距離を詰め、ハヤタの胸部を殴りつける。
衝撃。
だが、ハヤタは倒れなかった。
銀色の宇宙服が、衝撃を受け止める。赤いラインが浮かび上がり、戦闘モードへと移行する。
ダダは驚いたように後退した。
「戦闘は想定外だ。君は――」
言葉は続かなかった。
ハヤタは踏み込み、正面から拳を叩き込む。
次いで肘、膝、体重を乗せた体当たり。
技ではない。
純粋な肉体の力と重さ。
ダダの体は脆かった。
知性と研究に特化させた変異は、防御を犠牲にしていた。
数合も打ち合うことなく、ダダは地面に叩き伏せられる。
四肢が痙攣し、視線が虚空を泳いだ。
「……なぜ、惑星民を守る」
かすれた声で、ダダが問う。
ハヤタは答えなかった。
答える資格が、自分にあるとは思えなかったからだ。
「君は……人間に、期待しているのか……」
それが、ダダの最後の言葉だった。
施設の外に出ると、夜明けが近づいていた。
巨大な太陽が昇り始め、都市の影がゆっくりと伸びていく。
ハヤタは拳を見つめる。
守ったのか、壊したのか――その境界は、あまりにも曖昧だった。
だが、確かなことが一つだけあった。
この惑星で起きている悲劇は、まだ始まりに過ぎない。
次に現れるものは、
仲間ではない。
そして、これまでのようには、いかない。
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