第3話:篠原ホノカはサキュバスである <1>
私、篠原ホノカはサキュバスである。
いきなり何を言い出すんだこの女は――と思ったでしょ。
自分でも信じられないけれど、残念ながら本当のことよ。
エッチなマンガの読み過ぎじゃないのか――だって?
……いったい何のことかしら。何を言っているのか私にはさっぱりだわ。
まあ、信じられないのも無理ないと思うわ。
こんなオカルトだかファンタジーだかよくわからない存在が、この世にいるだなんて。
でも、正真正銘、私はサキュバスなの。
自分がサキュバスだと知った頃は、この身の上を恨んだこともあったわ。
だけど、今ではそういうものだと納得して、それなりに生きているの。
言っておくけど、サキュバスだからって、色情狂みたいにセックス中毒だったり、男を狂わせたり操ったりするような、すごい能力があったりするわけじゃないわよ。
見た目とか、生態とかは、普通の人間とまったく同じ。
ずっと昔から人間社会に溶け込んでいるから、ちゃんと戸籍もあるし。
パパとママの間に生まれ育って、普通に学校に通って、仕事もして税金もきちんと納めているんだからね。
ただ、普通の人と何か違うところがあるのだとすれば、人よりちょっとだけエッチが好きなのと、少しの能力を持っていること、そしてある制約に縛られている。このくらいだわ。
……ちょっとだけだからね。ホントにちょっとだけだってば!
だって、ユキトとしかしていなくても、充分に満足しているんだもの。だから、ホントにちょっとなの!
フィクションに出てくるサキュバスみたいに、日がな一日エッチし続けずにはいられないわけじゃないし、男をたらし込んで堕落させるわけでもない。まあ、後者に関しては出来ないわけじゃないけどね。
ま、順番に説明するからちょっと待っていなさい。
さて、最初に私を縛る制約のことを話しておくわね。
サキュバスであることの制約――それは18歳を過ぎたら、72時間に1度、男の精を取り入れないと死んでしまうこと。
……ねえ、神か悪魔かどっちが考えたのか知らないけれど、何なのよこの設定ってば!
これを知った中学生の頃は、さすがに絶望したわよ。ホント、勘弁してほしいわ。
念のため説明しておくと、取り入れるっていうのは、生でいたすか、口で飲み込むっていうことね。
ローティーンの多感な時期に、こんなことを教えられた女の子の気持ちになってごらんなさい。文字通り、絶望したんだからね。
そして、この制約があるために、サキュバスが平穏に生きるには、18歳以降は常に彼氏をキープし続けるか、さっさと結婚する必要があるの。だから私のママも、若いうちにパパと結婚したわ。
一方で、そうした平穏な人生、いわゆる普通の人間の生き方を選ばなかったサキュバスもいるわ。そういうサキュバスが選んだ方法ってのは、要するにビッチになるってこと。手当たり次第に男を漁り、誘惑して、ベッドに引き込む、ふしだらな魔性の女。たぶん、世間一般でのサキュバスのイメージって、こっちよね。
でも、少なくとも私の知る限りは、
私が言いたいのは、サキュバスだって普通の人間と同じ様に生きたいってこと。
だから、サキュバスは普通の思春期の少女よりも、悩み深い人生を歩むことになるわけ。わかるでしょ?
そして、私はユキトと一緒にいることを選んだわけだけど、以前はそうではなかった。
この辺りの話しは長くなるから、また後でね。
そうそう、サキュバスの能力のことを話していなかったわね。これは2つあるの。
ひとつめは、普通の人間よりも病気に罹りにくく、怪我をしづらくて、仮にしても治りが早いこと。
ただし、スーパーマンみたいに鋼の体ってほどじゃないわ。
たまに、一生の間、ほとんど怪我も病気もせず、死ぬとき以外は医者に掛からない人っているじゃない? あれの、ちょっとだけすごいバージョンみたいなものね。
私もこれまでに一度も風邪を引いたことがないし、虫歯になったこともないわ。転んでも膝をすりむいても数分後には跡がキレイに消えているし、熱湯がかかってもちょっとくらいなら火傷しない。
ただし、飛行機事故でバラバラになったり、激しい火事で黒焦げになったりすると、さすがにダメみたいだけどね。
――溺れたらどうなるのかって?
数時間くらいは空気がなくても平気らしいわ。だから、そもそも溺れることがないみたい。おかげで私も水泳は得意なの。さすがに、太平洋のど真ん中とかに放り出されたらヤバいと思うけど。
――えっ、何か実例があるのかって?
これまでの話しは全部、私のママに聞いたことよ。ママもたぶんママのママ、つまり私のお婆ちゃんに聞いたんだと思う。ちなみに私のお婆ちゃんは、私が生まれてすぐに亡くなっているから、私は会ったことがあるけど覚えていないわ。
あと、私のパパは普通の人間。サキュバスは女だけしか存在していないから、子どもを産むためには普通の人間の男と結ばれる必要があるわ。
そして、サキュバスはたったひとりしか子どもを産めなくて、生まれてきた子どもは必ずサキュバスになるの。つまり、サキュバスからは、サキュバスしか生まれない。だけど、たったのひとりだけ。
つまり、私が子どもを産まなかったり、産む前に死んだりするようなことがあれば、サキュバスはこれで消滅するというわけ。はかない存在でしょ。
まあ、下手に男兄弟とかいたら、いろいろ面倒なことになりそうよね。だから、サキュバスしか生まれなくて、良かったのかもしれない。
――兄弟姉妹は欲しくなかったのかって?
うーん、あんまり考えたことないわね。子どもの頃からユキトと一緒だったから、ひとりで寂しいと思ったことはないの。本当よ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます