第2話 堕ちる令嬢

「やだ……っ、何、これ……頭の中に、知らない声がいっぱい……やめてっ。ああ、アル……アル様……私、私……何を……あ、あああああッ!!」


 プライドの塊だった彼女の瞳が、一瞬で「僕への狂信」に染まる。復讐なんて言葉、僕には似合わない。僕はただ、みんなを僕の「眷属」にして、永遠に仲良くしたいだけなんだ。氷華の令嬢が深淵に溶ける。


「ひっ、あ……ああぁぁぁッ!!」


 床に這いつくばるルリムの細い腰を、僕の影から伸びた漆黒の触手が愛おしそうに締め上げる。

 あんなに冷たく僕を見下していた瞳は、今や涙でぐしょぐしょに濡れ、僕の顔色をうかがうように震えていた。


「ルリム、そんなに震えないでよ。……ほら、君の自慢の氷魔法で、僕を凍らせてみせて?」


「あ、アル、様……っ。無理、……無理ですわ……。魔力が、私の意志を無視して……勝手に、熱い泥になって……っ!!」


 彼女の白い肌の下を、蛆虫のような血管が這うように脈打っている。


 『神話経典第1章2項:肉体の福音』

 

 僕が彼女の首筋に指を這わせると、氷のように冷たかったはずの彼女の体温が、一瞬で沸騰した。

 彼女の誇りだった氷の魔力は、僕の深淵に触れた瞬間、彼女を内側から犯す「情欲の燃料」へと書き換えられてしまったんだ。


「あ……あが、っ。脳の中に、知らない『悦び』が……流れこんでくるぅ……ッ! 私、私は……公爵令嬢、なのに……こんな、無能な、貴方に……ひぅッ!?」


 触手の先が彼女の薄いドレスを裂き、露わになった聖域へと容赦なく侵入する。氷の結晶のように清らかだった彼女の身体は、僕の粘液を浴びるたびに、まるで熱に晒された飴細工のようにドロドロにそして無様に蕩けていく。


「無能な僕に、こんなに可愛い声で鳴かされるなんて、令嬢としては失格だよね? ……でも、大丈夫。今の君は、世界で一番『僕に必要とされている』よ」


 僕は彼女の顎をクイと持ち上げ、その唇を奪った。舌を絡めるたび、彼女の理性がガラスのように砕け散る音が聞こえる。


「ん……むぅ……っ! は……ぁ、あ……アル……アル様ぁぁッ!!」


 ついに、彼女の瞳から最後の抵抗の光が消えた。

代わりに宿ったのは、真っ赤に充血した、底知れぬ狂信と情欲の色。

 ルリムは自分から僕の脚に縋り付き、その服の裾を涎で汚しながら、何度も、何度も僕の名前を呼び始めた。


「あぁ、アル様……私、……私、今までなんて愚かだったのでしょうっ。こんなに、こんなに幸せな『真理』があるなんて。もっと、もっと私を……グチャグチャに、その深淵の狂気で汚染してください……っ!」


 公爵家の権威も、氷の魔法使いとしての自尊心も、すべては深淵に飲み込まれた。かつて僕を焼こうとしたカイン兄様は、もはや人の形を保てず、部屋の隅で「肉の塊」となって歓喜の拍手を送っている。


「いい子だ、ルリム。じゃあ、明日は一緒に街に行こうか。君みたいな『名誉ある生徒』が、僕の足元で這いつくばって歩く姿……みんな、きっと驚いてくれるだろうね」


「……はい、ご主人様。私は貴方の『犬』として、この命託します。どうかこの下賎な畜生を側に置いてやってくださいませ」


 ルリムは恍惚とした表情で僕の靴を舐め上げ、その細い首に、自ら氷の鎖を形成して僕に差し出した。


「さぁて明日は何をしようか!? 街を虹色に染め上げてあげようかな? あるいは父さんに謁見でもしてみる? それとも魔王軍を滅ぼすとか!?」



──こうして狂気の存在アル・ハザードの愉快で冒涜的な毎日が始まったのである!

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『魔力0で焼殺された王家の次男、邪神ニャルラトホテプの力で「淫らな狂気」を撒き散らす無双の王へ〜自分を捨てた令嬢も、護国の女騎士も、メスガキ魔王も、神話の魔導書で全員分からせてやる〜』 なかえ @Putamaru

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