『魔力0で焼殺された王家の次男、邪神ニャルラトホテプの力で「淫らな狂気」を撒き散らす無双の王へ〜自分を捨てた令嬢も、護国の女騎士も、メスガキ魔王も、神話の魔導書で全員分からせてやる〜』
第1話 貴族の次男の僕は魔力がゼロで焼かれました
『魔力0で焼殺された王家の次男、邪神ニャルラトホテプの力で「淫らな狂気」を撒き散らす無双の王へ〜自分を捨てた令嬢も、護国の女騎士も、メスガキ魔王も、神話の魔導書で全員分からせてやる〜』
なかえ
第1話 貴族の次男の僕は魔力がゼロで焼かれました
「……えーと。ゼロ。うん、何度見ても、やっぱりゼロだね!」
魔法学校の進学試験。魔力測定の水晶を前に、僕は爽やかに言い放った。
周囲の受験生からは失笑が漏れ、試験官はゴミを見るような目で僕を凝視している。王家ドラグニル家の次男として、これは本来、絶望すべき事態だ。でも、僕は全然気にしてなかった。
「だって、魔力がないってことは、難しい呪文を覚えなくていいってことでしょ? その分、お昼寝したり、遊んだり、好き放題じゃないか。これって最高にラッキー!」
僕は本気でそう思っていた。家柄とか、期待とか、そんな窮屈なものより、今日のおやつが何かの方が僕にとっては重要だったんだ。けれど、世間はそう甘くなかったみたい……
「……アル。貴方のそのヘラヘラした顔が、昔から本当に嫌いだったわ。反吐が出る」
屋敷の裏手、崖の淵で。僕を冷たく見下ろしていたのは、婚約者のルリムだった。彼女は稀代の氷魔法の使い手で、その美貌と才能から「氷華の令嬢」と持てはやされている。
「期待していたのよ。王家の血を引く貴方が、いつか私に相応しい『王』になることを。でも、結果は無能のゴミクズ。そう貴方は人間のクズ……ふふ、笑えるわね。私という最高級の宝石を飾る台座が、こんな安物だったなんて」
彼女にとって、愛とは「自分を輝かせるためのステータス」に過ぎなかったのか? 僕が魔力0だと分かった瞬間、きっと彼女の中で僕は「愛でる対象」から「即刻廃棄すべき不良品」に変わったんだ。それでも僕は彼女を諭すように言う。
「ルリム、そんなに怒らなくても。たしかに僕は安物だけど、けっこう丈夫だし長くつかえると思うんだけど」
「黙れ、無能がッ! ……カイン様、やってちょうだい。この男の存在そのものが、私の経歴の汚点だったわ」
彼女が隣に立つ僕の兄、カインの腕に寄り添う。
カイン兄様は勝ち誇った顔で、指先に死を招く『紅蓮の炎』を灯した。
「あはは、カイン兄さんとくっつくなんて、趣味が悪いよルリム。あ、もしかして僕を驚かせるためのサプライズパーティー? ……にしては、ちょっと火加減が強すぎないかな?」
放たれた炎が、僕の視界を真っ赤に染める。熱い、熱いよう。皮膚が焼ける嫌な音がする。
でも、僕は死ぬ間際まで「あーあ、晩ごはんのパイ、楽しみにしてたのになぁ」なんて考えていた。
そして燃え尽きた僕の体はドサリ、と雑に崖の下に蹴り落とされた。ルリムの「汚らわしい」という吐き捨てる声を聞きながら、僕は黒焦げの肉塊として闇へ沈んでいった。
──そこは、音も光も、重力すらも「お休み」している場所だった。
『ハハハ! 君は面白い奴だな。焼かれながらパイの心配をするなんて、最高に狂ってる』
暗闇の中から、千の貌を持つ男か女かさえ分からない存在──邪神ニャルラトホテプが姿を現した。
「あ、君が神様? もしかして、食べ損ねたパイを持ってきてくれた?」
『どこまでいっても陽気な狂人め。そんな君にはパイ以上のものをあげよう。君のその空っぽな器に、世界の裏側の真理を余すことなく詰め込んであげるよ。魔力がない君だからこそ、魔力なんてちっぽけな定規じゃ測れない、絶対的な狂気の力を得ることができる』
長すぎて何を言ってるのか全然分からなかった。だけどなんだか面白そう。
「いいよ! 退屈なのは嫌いだし、面白そうだから契約しちゃう!」
僕は笑って、邪神と指切りをした。その瞬間、僕の「魔力0」というステータスの裏側で、【深淵の狂気】という名のどろりとした闇が、無限に溢れ出し始めたんだ。全身に宇宙の冷気を感じ、脳が溶けるような感覚を得た。だけどすぐにそれは心地よい熱となって、僕の体を包みこんだ。
『適合早っ! もしかすると君は才能の塊かもしれないね。まぁいい、とにかく行っておいで。行って世界を良くすることが、今日から君の仕事だよ』
邪神様は、誰からも必要とされなかった僕にそう言ってくれた。今日は良い日だ。こうして僕は転生した。
「……ふぅ。一休みおわり!」
崖の下。黒焦げだった僕の体は、邪神様の力でピカピカに元通りになっていた。
いや、元通りどころか、僕の体からは常に「何か」が滲み出ている。
「さて、おうちに帰らなきゃ。ルリムも、僕がいないと『台座』がなくて困ってるだろうしね。……最高のプレゼントを持って帰ってあげよう!」
屋敷の食堂。僕の死を祝う「祝杯」の席に、僕は音もなく現れた。
「ただいまー! みんな、主役の僕抜きでパーティーなんて水臭いじゃないか!」
静寂。グラスが床に落ちて割れ、カイン兄様が腰の剣を抜くと同時に、魔法を発動させる準備をしている。そして、ルリムは幽霊を見たかのように顔を蒼白にさせた。
「な、……アル!? 貴方、焼かれて、死んだはずよ! それに、その姿……っ!」
「この死に損ないめ! 今度こそ確実に燃えろ!」
「あはは、お兄様の炎とっても温かかったよ。おかげで『目覚め』ちゃった」
僕は指先をパチン、と鳴らした。
『神話経典第1章1項:クトゥグァの残火』
カイン兄様が放とうとした赤い炎は、瞬く間に「青色に脈打つ冒涜的な炎」に飲み込まれ、彼を悶絶させる。
それを見て震えるルリムに、僕は最高に陽気な笑顔で近づく。
「ねえ、ルリム。君は僕を『ステータス』でしか見てなかったよね。……だったら、この世で一番だいじなステータス、『狂気』をたっぷり注いで、君自身を誰にも真似できない『最高級の狂信者』に書き換えてあげるよ。良かったね! これで一流になれるよ!」
僕の手から溢れ出した黒い粘液が、彼女の美しい氷のような肌を黒々と侵食していく。
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