第13話 思い出のガレット
――――ガチャリ。
牢から運び出されたヴィオラはぐったりとしている。
フェルさまに牢から出してもらい、真っ先にヴィオラに駆け寄る。
「ヴィオラ!どうしよう……ポーションを」
しかしあれは品質が落ちてしまった。どれくらいだろう?
「治療なら問題ない。上で見てもらえる」
「それって神官か誰か……?でもここの神官たちは」
リリシアの悪事に荷担したのでは。
「問題ない。上も制圧済みだ」
制圧済みって……皇国の大神殿に怒られるようなことをしてないかしら?
急いで階段を駆け上がり、応接間のような部屋に通されれば。そこには思ってもみない人物が待っていた。
「ルシルさん!?」
ローズ伯爵と待っていたのはあの日出会ったルシルさんだったのだ。さらにその周りには見覚えのあるガタイの聖騎士たち。格好を見るにこの神殿の聖騎士の格好とは少し違う。
「お久しぶりですね、リーシェさん。ヴィオラさんは……無事とは言い難い様子ですが」
「は……はい。私では治癒魔法がかけられないので……」
「それでも治癒魔力は確かにありますよ」
「え……っ」
分かるの!?
「どのような使い方ができるかはひとそれぞれ。恥じる必要も悩む必要もありません」
コツコツとこちらに歩みを進めてきたルシルさんが騎士に抱えられるヴィオラにそっと手を翳す。
するとみるみる傷が癒え、ヴィオラが目を開ける。
「う……っ」
「ヴィオラ!ヴィオラ、良かった!」
「奥さま……心配をおかけして」
「そんなこといいの!無事で良かった!」
騎士に下ろしてもらったヴィオラと抱き合う。
「王弟殿下、この度は何とお礼を言えばいいか」
そしてフェルさまに駆け寄ったのはヴィオラとよく似た男性である。
「詫びをするのはこちらの方だ。貴殿の妹御を巻き込んでしまった」
「いいえ、ヴィオラは強い妹ですから。女主人の夫人を守るのも務めです。よく頑張って務めを果たしてくれた」
「……お兄さま」
ヴィオラの目が潤む。彼がホーリーナイト公爵なのだ。
「さて、主な実行犯は捕らえたようですが」
ルシルさんがロレンツォ王子に向き合う。
「ええ。その他事実を黙認しようとした神官たちや誘拐実行に加わった聖騎士たちを近衛騎士たちが拘束しています」
外では拘束された聖騎士たちが連行されているのが見える。
「ええ。彼らは大神殿としても聖職から追放しますので好きにしていいですよ」
「それは何より」
ルシルさんの言葉に拘束されている神官や聖騎士たちが青い顔になる。
「ちょっと、何なのよそれ!」
そんな中、近衛騎士に拘束されながらもリリシアが吠える。
「だいたいあんた何なのよ!聖女であり王女のわたくしに不敬よ!」
あなたがそれを語れる立場なのだろうか?しかしながらルシルさんがそこまでの権限を持っているのはどうして……?
「そうなのですか?私は聖王で皇国の皇王のだいぶおじいちゃんですよ」
へぁ……?だいぶおじいちゃんの部分が謎だが……聖王って確か大神殿の最高責任者なのでは!?
「聖女を名乗るくせに知らないとはな。この方は聖王ルシル・シャルルさまだ」
フェルさまの紹介にルシルさんがへにゃりと笑む。
「ええええぇっ!?」
「……リーシェが知らないで知り合ったのも驚きだが、知り合いだったのも驚きだ」
そう言えばフェルさまにはまだ知り合ったこと話してなかったけど聖王だってのは私も初耳だ。
何となく高貴なイメージは感じ取れたのだけど。
「そう言えば……あなたは聖女なのですね」
ルシルさんがそっとリリシアの手に触れる。
「最初はどうであったかは分かりませんが……これでは聖女と呼べる治癒魔力はありませんね」
うそ……だからこそ私にポーションを作らせたってこと?
「聖女の力はその行いや精神状態にも左右されますが……あなたの場合は前者のようですね」
卑怯なやり方に手を染めたリリシアはいつの間にか聖女ですらなくなっていた。
「大神殿はあなたを聖女とは認めません。追放です」
にこりと告げるルシルさんの表情は穏やかなものだが告げられた宣告は二度と神殿の敷居を跨げないし治癒魔法使いも名乗れない。その力もないのだろうが。
「この神殿の上層部も入れ替えましょうか。拘束されていたホーリーナイト公爵家のみなさまはまともなようですのでひとまず彼女らに預けます」
「承知いたしました」
公爵が頷く。公爵家筋のひとたちも今は無事に解放されたようである。
「リリシアは城に連れ帰り父上の沙汰を待つことになります」
「そうしてくれ、ローレン」
まだ喚いているリリシアが近衛騎士たちに連行されていく。
「そんな……っ!助けて……フェリックスさまぁっ!」
「ふざけるな。リーシェに手を出したお前など誰が助けるか!」
「何で……何でその女なのよぉっ!」
「お前には一生分からないさ」
フェルさまは私を抱き寄せればニヤリと勝ち誇ったように笑んだ。
※※※
――――騒動が落ち着いて数日後。
リリシアは王家の身分を剥奪され王城の牢に幽閉された。捕らえられた元神官や聖騎士たちと裁判を待っているそうだ。
「まぁそれはそうと……できたわ!」
「とても美味しそうですわね!」
今日はヴィオラに手伝ってもらい取って置きのレシピでガレットを焼いたのだ。
ガレットを携えサロンに向かえば、そこにはフェルさまが待っている。それからふらりと遊びに来たと言うルシルさん。
「わぁ、いい匂いですね」
ガレットの匂いにルシルさんがうきうきしているようだ。
「いただいたレシピ通りには作ってみたんですが……」
ご希望に添えただろうか?
「ええ……んんっ、美味しいです!昔、妻に作ってもらった味そのものですね。治癒魔力も宿っていますよ」
「もしかして奥さまも……」
「ええ。リーシェさんと同じく食べ物に治癒魔力が宿るんですよ。飲み物やポーションにも。一方で治癒魔法は使えないのですが」
「まさに私と同じですね。よくあること……ではないんですかね?」
「私が知る限り数百年ぶりですよ」
数百年って……ルシルさんって本当に何歳なのだろうか。
「そしてその治癒魔力が合うものにとっては何よりも愛おしい」
ルシルさんはそう言うとフェルさまに微笑みかける。
「まぁ……そうだな」
初耳だ。まさかフェルさまとも治癒魔力の相性が合っていたとは。
「だが多分合うのはローズ伯爵夫人もだ」
「そう言えば……そうだ、ルシルさん」
「はい」
「ローズ伯爵夫人はその、魔力が枯渇してしまい体調不良を訴えることが多くて。でも私のお菓子を食べると調子がよくなると言ってくれるんです」
「そうでしたか。魔力の枯渇については魔力器官の不具合が原因なので完治は難しいですが……合う魔力から供給を受ければ症状を改善できるのですよ」
「やっぱり……!でもできればその不調、できるだけ軽減してあげたいんです」
だからと言って毎日のようにお菓子を作ってお出しすると言うのも大公夫人の身分では難しくなってしまった。
「そこら辺はリーシェをもらい受けた際にも夫人と話し合った」
その手の話をフェルさまから聞くのは初めてだ。
「だが夫人は……リーシェの女性としての幸せを何よりも願ってたから、俺に預けてくれた」
「アリーシャさま……」
「俺はそうはできなかったがな」
あの離婚騒動のことを言っているのか。でも……っ。
「そんなことない!フェルさまが助けに来てくれて、私、とっても心強かったから!」
「……リーシェ」
「フェルさまの妻で良かったって、思えるの。アリーシャさまにも自信をもって嫁いで良かったと言えるわ」
「ああ……ありがとうな」
「ええ。だからこそアリーシャさまの症状をどうにか……」
「リーシェさんのこしらえたMPポーションを定期的に卸す、と言うのはどうでしょうか?その折にお菓子もつければ喜んでくださるのでは?」
「そっか……手作り菓子よりは保存が効くもの」
「ええ。そうして定期的に摂取してもらえばいいのです。それが一番の治療法です」
「はい!ルシルさんにはお世話になってばかりで本当に……」
「いえいえ、できることをすこーしだけ頑張ってやってるだけですよ」
少しだけって……。先日の捕物帖はその規模ではなかったのだが。
「それはそうと、先日はどうしてフェルさまたちとご一緒に?」
「それですか。実は休暇でこちらの国を旅行中だったのですが」
その最中に私たちも出会ったのか。
「皇王からこの国の国王陛下へのお手紙を預かったのをすっかり忘れておりまして」
それ一番大事なのでは!?
「ふらりと立ち寄ったところでリーシェさんとヴィオラさんのお名前が聞こえてきまして、もしやと思いお声をかけたんですよ」
「ほんとあの時は驚いた。ひとりでふらりと現れて慌てて後ろから護衛が追っかけてきてた」
相変わらず護衛のひとたち撒いてたのか。今日は約束していたのもあり一緒に来てくれたけど。
※※※
――――その夜
討伐を終えて帰還したフェルさまとは今もベッドを共にしている。
「今日は何かと賑やかだったな」
「うん。ルシルさんとの会話も楽しかったし」
「あれで大神殿の最高責任者……まだまだ実感が湧かないが」
「数百歳って……本当なのかしら」
「本当らしいぞ」
「やっぱり……?」
フェルさまが言うのなら本当……よね。本人もそんな風に言っていたもの。
「その、フェルさま」
「フェルでいい」
「えと……っ」
「呼び捨てで呼んでくれないか?」
「……」
それはその……改めて言われると緊張するのだが。
「ええと……ふぇ……フェル?」
「そうだ」
勇気を出して呼べば、そこには想像通りの優しげな笑みがある。
「今度2人でローズ伯爵家に行こうか」
「そうね。MPポーションのことも話したいもの」
「それもあるんだが……」
何だろう?ローズ伯爵と仕事の話……ならこちらでもできるだろうし。
「ちゃんと挨拶がしたい」
「挨拶?」
「ディーノとアリーシャの大切な娘を妻にもらったんだ。その挨拶に」
「……っ」
2人は私にとっては育ての両親にも等しい。フェルもそれを分かってくれている。それが何よりも嬉しくて、いつの間にかポロポロと涙が溢れてしまった。
「一生大切にする」
フェルがふわりと抱き締めてくれる。
「うん……っ」
思えばあの時はメイドとして大公邸に来たのだ。だがフェルはもとより娶るつもりでメイドとして迎えていた。
私たちはまだ両親にしっかりと結婚の挨拶もこなしていなかったのだ。夫婦としてまだまだ未熟だけれど少しずつ。
――――できることを少しずつ頑張っていければいい。
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