第4話

ヤマトは震える手でスマホを見つめた。画面には真っ赤な背景に黒い文字。

【第一の儀式:信仰の証明】

【皆の忠誠を示すために登録せよ。登録せぬ者は、排除する。】

「おい……これ、俺の仕込みじゃないぞ! 本当にバグってるんだ!」

ヤマトがカメラに向かって叫ぶが、コメント欄は一気に加熱し、怒号と嘲笑が渦巻いた。恐怖を「ヤラセ」という安全な言葉で塗り潰そうとする群衆の心理だ。

《ヤマト、お前マジで金かかってんなこの演出ww》

《登録解除したら死ぬとか古すぎ。寒いんだよ》

《これ全部CGだろ? 捻じ切られた奴らの顔、エキストラじゃねーの?》

だが、その傲慢な罵倒は、無慈悲なシステムによって破られる。

【未登録者:計42名。……排除を開始】

「え……?」

ヤマトの目の前、何もない空間に「亀裂」が走った。ガシャン、というガラスが割れるような音と共に、密閉された無機質な「白いタイルの部屋」が虚空に浮かび上がった。

そこには、さっきまでコメント欄でヤマトを叩いていた者たちが、寝巻き姿や食事中の姿のまま転送されていた。

「な……なんだここ!? 離せ!」

「ヤマト! 拉致監禁か!? 警察呼ぶぞ!」

彼らはまだ、これが「仕込み」だと信じていた。ヤマトに向かって罵声を浴びせ続ける。

だが、部屋の四隅から、底知れぬ暗闇を凝縮したような「どす黒いモヤ」が染み出してきた。


「なんだこれ、煙……?」


一人の男が、訝しげにそのモヤに触れた。


「……ぎ、……あ、あああああああ!!」


刹那、男の絶叫が部屋に響き渡る。モヤに触れた指先から、肉が、骨が、まるで見えない巨大な万力に放り込まれたかのように「ぐちゃり」と潰れた。


「助けて! 痛い、痛い痛い!!」


モヤは意思を持っているかのように、ゆっくりと、執拗に彼らの体に纏わりついていく。

それは一瞬で命を奪う慈悲など持たない。数分間かけて、生きたまま人間を「肉の塊」へと再構築する呪いだった。


「ひ、ひいいいっ! 来るな、こっちに来るな!!」



逃げ場のない白い部屋で、42人が重なり合い、泥のようなモヤに飲み込まれていく。

メキ、メキメキッ、と生々しい音がマイクを通して6万人の耳に届く。腕が肩の中に押し込まれ、足が腹の中にめり込み、顔面が中央に向かって陥没していく。

一人、また一人と、人間としての輪郭を失い、ただの「脈打つ肉塊」へと変えられていく。

最後の一人が潰れても、ヤマトはその阿鼻叫喚を、ただカメラで映し続けることしかできなかった。

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