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 会計を済ませて、店の外に出た。


 十二月の夜だった。空気が冷たくて、吐く息が白かった。店の中の熱が、一瞬で体から抜けていった。


「二次会、行く人ー」


 誰かが声を上げた。何人か手を挙げた。先輩も手を挙げた。


 私は挙げなかった。


「行かないんですか?」


 隣にいた後輩が聞いた。


「明日、早いから」


 嘘だった。明日は土曜日で、何も予定はなかった。


「そうですか。お疲れさまでした」


 後輩はそう言って、二次会に行く人たちのほうへ歩いていった。


 私はその場に残った。


 先輩が、こっちを見た。


 目が合った。一秒か、二秒か。短い時間だった。


 先輩が何か言おうとして、口が少し動いた。でも、声は出なかった。誰かが先輩の腕を引いて、「行こう」と言った。


 先輩は私から目を離して、そっちを向いた。


「じゃあ」


 先輩がそう言った。私に向けてではなかった。全員に向けて、軽く手を挙げて、そう言った。


「お疲れさまでした」


 私はそう答えた。声が小さかった。届いたかどうか、わからなかった。


 先輩は歩いていった。何人かと一緒に、駅と反対の方向へ。背中が遠ざかっていった。


 私は見ていた。


 見ていることしか、できなかった。


 角を曲がる直前、先輩が振り返った。一瞬だった。私を見たのか、別の誰かを見たのか、わからなかった。


 でも、私は手を挙げなかった。


 挙げようと思ったときには、先輩はもう曲がっていた。


 背中が消えた。


 空気が冷たかった。さっきより冷たくなった気がした。先輩がいなくなったせいだと思った。でも、それは違うとも思った。


 最初から、この冷たさはあった。


 私が気づいていなかっただけだ。

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