サンタさん

小学一年生だった頃の話。

僕の家は、玄関の隣が少し広めの部屋になっていて、四個上の兄と僕の部屋として使っていました。二段ベッドが窓際に置いてあって、僕は下の段、兄は上の段で寝ていました。カーテンは薄い水色で、外の街灯の明かりが夜でもぼんやりと部屋を照らしていました。

玄関のすぐ目の前に道路があり、部屋にいると玄関の物音が聞こえます。ドアを開ける音、郵便受けの音、宅配便の人の足音。壁一枚隔てただけの距離だったので、音は全部筒抜けでした。

幸いその道路は人通りが少なく、夜寝てる時に物音で目が覚めることはありませんでした。


十二月二十四日、クリスマスイブ。

その日は雪が積もっていたのを覚えてます。朝起きたら窓の外が真っ白で、積雪は多分十センチくらいはあったと思います。

雪がザッザッと靴の下で音を立てていました。吐く息が白くて、手袋をしていても指先が冷たかったです。

習い事のあとの帰り道、僕は兄に提案しました。


「兄ちゃん、今日サンタさん待と!」


当時の僕はかなり無邪気で兄をいつも困らせてたのを覚えてます。その時も兄は困った顔をしながら、


「早く寝ないとサンタさん来ないよ」


と言い、手袋をつけた手でガシガシと頭を撫でてきました。毛糸の手袋の感触がゴワゴワしていました。僕は不貞腐れながら兄の手を振り払いました。頬を膨らませて、わざと大きな足音を立てながら歩きました。


その日の夜、僕はベッドに懐中電灯を持ち込んで夜中まで起きていようとしました。枕の下に隠しておいて、部屋が暗くなったあと、布団の中でスイッチを何度かカチカチとつけていました。まぁ寝落ちしてしまいましたけど。

何時くらいか分からないんですけど、外からザッ…ザッ…という音が不規則に聞こえてきて目が覚めました。

咄嗟にサンタさんだ!と思って布団から飛び起きました。耳を澄ましているとザッ…ザッ…という音は鳴り止み、しばらくガサガサと音が鳴りだして、そしてまた再び静寂が訪れました。

僕は好奇心を抑えられず、カーテンをそっと指で開けて、冷たい窓ガラスに額を押し付けるようにして外を見ました。

街灯の明かりに照らされて、赤い服を着ている男が見えました。想像していたのとは少し違い、30代くらいで、青い袋を肩に掛けていました。

その時、パッと目があった気がして、バレたらプレゼントが貰えなくなると思って急いで寝ました。


一瞬だったけど、僕は確かにサンタさんを見たんです。






〇エピローグ


「サンタなんているわけないやん」


「いや、ほんとに見たんだって」


僕は話を聞いてKに疑いの目を向けた。


「プレゼント置いてるのは親だよ、親」


Kは俯く。少し悪いことしたかなと思ったが、高校生にもなってサンタを信じてるのはちょっとおかしい。


「…やっぱりそうなのか…」


「ん?」


「あの日以来、父さん行方不明なんだ」


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