第7話 言うなれば吸血鬼、に成った訳

 

 未だに納得のいかない私に対して、まあまあ、となだめるように頬を上げながら首を小さく下げて見せながら、そのまま説明するように洋三郎さんは続けます。

「ここで、また話が移ってしまうように思われるかも知れませんがね、何故私がこの体に、望みはしませんが他人ひとが言うなれば吸血鬼、に成ったその訳とでも言うべきものがどのような理由にるものなのか、その始まりのきっかけのようなものをお話し致します。おや、珈琲コーヒーが冷めてしまいましたね。もう一杯いっぱい如何いかがですか。はい、ではお水かお茶でもお持ちしましょうか。喉は乾いておられませんか。では、話を続けさせて頂く事と致します。私は人間の子として生まれました。両親も人間です。私も人間。当たり前の事なのですがね。その両親は、決して長寿であったとは言えず、当時であっても人並みよりも幾らか若くして世を去りました。それでも私が分別ふんべつの付く年頃まで育てて下さった訳ですから、顔も覚えて居ますし、今でも時に思い出す事は有ります。感謝していますよ。今よりもずっと不安定な世の中で私を養い育ててくれた親なのですから。その父母なのですが、思い起こせば元々は壮健そうけんたちであったかと思います。二人とも。それがある日突然高熱を出して、間も無くに亡くなってしまいましてね。原因不明の高熱で。当時は医師にもはっきりとした病名は聞かされませんでした。そしてその葬儀も行わない内に、今度は私が同じく高熱を発して病床にせる事となりました。これはその後随分と時が過ぎてから医師、と呼ぶよりは医学博士か研究者と言った方が通じそうなかたが述べた意見を聞いての事となりますが、どうやら両親は私が生まれるより前に二人で大陸、それが今で言う中国なのか朝鮮半島のほうなのか、それともそれ以外の土地を指すのかは明確で無いのですけれど、そちらを訪れた事があったらしいのです。目的は分かりません。現代の価値観で言うと旅行に近いものであったのか、お仕事の一環であったのかも。まあ、時代が全く異なりますから、当時のご時世ですと海を渡っての旅行というのは少々考えにくい事となりますのでしょうし、お仕事に関するものであったのかと私は勝手に考えております。江戸時代、に相当する筈ですから、その時期は。そこで、どうやら両親は珍しいやまいに感染したのではないかと。潜伏期間のきわめて長い、珍しいやまいに。それが長年経ってから突然発症し、発症した時期に最も近くに在った私に感染して、そうですね、これは、私自身は医者でも専門の学者でもありませんからよく分からないのですが、何らかの要因によって両親二人が同時に発症し、次に私は何故か潜伏期間を待たずに感染して発症したという事であるのか、或いは、両親が大陸で感染した後に生まれた私ですから、遺伝にまで関わるものか、そうではなくて幼少より共に暮らした近しい者である私に生活の中で感染していてそれに気付かず暮らしていた中で両親と同じ要因をきっかけとして近い時期に私も発症したという可能性も有るとの御意見でしたが、結局の所その本当の原因ややまいの正体は分からないままなのでありました。大体そのように専門の医師か研究者さんとでも言う方々かたがたから、後になって聞いた覚えがあります。ああ、私、名前からよく兄弟の三男坊かと勘違いされたものですけれど、一人っ子でしたので他にきょうだいも無く、比較して調査する事も難しかったようですね。それでそのやまい、両親の命を奪ったものですが、私は二週間ほど生死のさかい彷徨さまよってのちに、熱は下がりながらえる事が出来ました。しかしそれでも生活に戻るまでには大変な苦労を要したもので、熱の後には全身の痺れや音、匂い、光、皮膚への接触や舌、味覚などの過剰な過敏性であったり、神経衰弱しんけいすいじゃく、いや失礼、今の時代ではそうは呼ばないのでしたね。とにかく心身のあらゆる面で様々な後遺症とも言える変化が生じて、そのまま以前の生活に戻れないというさまで、世の中の側としましても、これもまた後から知った事なのですが、狂犬病などとも異なって独特の側面が症状から確認された事から未知の伝染病である可能性をかんがみて、まだ若かった時分じぶんから、私は大きな町の病院で病棟に長く隔離されて過ごす事となりました」



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