第9章|桜の下での再会(前編)

春の風が街路樹の桜を揺らす。陽菜は大学の課題を終え、ふと校門の前を通りかかった。

「あ……桜、まだ咲いてるんだ」

昨年の卒業式の日を思い出し、胸がぎゅっとなる。あの桜並木の下で交わした想いが、昨日のことのように蘇る。


「陽菜!」

振り向くと、海翔が笑顔で手を振っていた。自然に、心が温かくなる。

「海翔、久しぶり!」

二人は桜の木の下で再会する。春の陽射しが花びらに反射し、幻想的に輝く。


「元気だった?」

「うん、海翔は?」

短い挨拶だけれど、胸の奥にある安心感が、言葉以上に伝わる。

「元気だよ。でも、やっぱり会えると嬉しいな」

海翔の声に、陽菜の胸がじんわりと温かくなる。


桜の花びらが風に舞い、二人の肩にそっと触れる。

「こうしてまた会えるって、やっぱり特別だね」

陽菜は小さく微笑み、視線を桜に落とす。海翔も同じように見上げ、静かに息をつく。


「覚えてる? 卒業式の日のこと」

海翔が少し照れながら言う。

「もちろん……忘れるわけないよ」

胸の奥で、あの日の言えなかった言葉も、今では温かい思い出に変わっている。


二人は桜の下をゆっくり歩き始めた。

「進路が違っても、こうやって会えるのは嬉しいな」

「うん、私も……」

言葉にせずとも、互いの想いが静かに伝わる。距離や時間を超えて、心は近くにあることを感じる。


「やっぱり、桜の下っていいね」

陽菜の声に、海翔は笑顔で頷く。

「ここで、また会おう」

二人の約束は、小さくても確かな温かさを胸に残した。

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