第8章|伝えたい言葉(前編)
大学のキャンパスは、春の光に包まれ、桜の花びらが風に舞っていた。
陽菜は講義の合間に中庭を歩きながら、ふと誰かの気配を感じる。視線を上げると、向こう側に海翔の姿があった。少し驚きと共に、胸が早鐘のように打つ。
「海翔……?」
小さく呼ぶと、彼もこちらに気づき、微笑む。
「陽菜……久しぶりだね」
その声は、あの日の夜桜の並木の時と同じように、心に温かく響く。
二人は自然と歩み寄る。周囲の喧騒が遠く感じられ、時間が止まったように静かになる。
「元気にしてた?」
「うん……海翔は?」
会話は短いけれど、互いに胸の中にある想いを確かめるように見つめ合う。
「最近、いろいろ考えてたんだ」
海翔が少し俯きながら言う。その声には、緊張と切なさが混ざる。
「私も……」
陽菜は頷き、言いたい言葉が喉の奥で絡まるのを感じる。
歩きながら、中庭のベンチに座る二人。桜の影が柔らかく揺れる。
「……やっぱり、言っておきたいことがある」
海翔の手がわずかに震える。陽菜も同じ気持ちだった。伝えたいけれど、どうしても言葉にできない想いが胸にあふれる。
「私も……伝えたい」
陽菜の声はかすかに震える。風がそっと花びらを運び、肩に触れる。沈黙の中で、互いの心が少しずつ近づいていく。
「でも……怖くて言えなかったんだ」
海翔の声は低く、でも確かに陽菜に届く。胸の奥が熱くなり、涙がじんわりと滲む。言えなかった日々のもどかしさが、今、花びらと共に溶けていくようだ。
「私も、怖かった……」
二人の手が自然に触れ合う。まだ言葉にできないけれど、心の中で伝わる確かな想い。
「これからは……ちゃんと言う」
小さくつぶやき、互いに頷く。未来への一歩が、静かに芽生えた瞬間だった。
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