第6章|夜の桜並木(前編)
夜の街に、淡い光がともる頃。
陽菜は小さなバッグを肩にかけ、駅前の桜並木を歩いていた。花びらは夜風に舞い、月明かりに淡く照らされている。
「今日が、最後の集まり……」
心の中でつぶやきながら、足元の花びらを踏まないように気をつける。胸の奥は、期待と不安でぎゅっと締め付けられていた。
駅前の広場には、海翔、莉奈、蓮、奏がすでに集まっていた。
「待った?」
莉奈が陽菜を見つけ、手を振る。陽菜は小さく笑って頷いた。
「ごめん、ちょっと遅れちゃった」
「大丈夫、私たちも今来たところ」
海翔の声が少し緊張して響く。陽菜は肩の力を抜き、深呼吸をした。
桜並木の下に並ぶベンチに座り、みんなで小さな話題を交わす。
「進路のこと、少しずつ慣れてきた?」
奏が柔らかく問いかける。
「うん、まだ不安はあるけど……少し前向きになれた気がする」
陽菜は答え、手元のカップを握る。
沈黙が訪れると、桜の花びらがそっと肩に触れた。
「やっぱり……別れるの、寂しいな」
海翔の声がかすかに震える。陽菜は一瞬息をのみ、言葉に詰まる。笑顔で頷くしかできない自分に、少し悔しさを覚える。
「私も……」
莉奈が小さくつぶやく。目を伏せ、指先でカップを握りしめる。
蓮は静かにその場を見つめ、微かな表情の変化を隠せない。みんな、それぞれが胸の奥で何かを抱えている。
「ねえ、陽菜……」
海翔がそっと声をかける。陽菜は顔を上げ、彼の瞳を見つめる。言葉を交わすだけで、互いの心が少しだけ温かくなる。
「今日、この桜の下で……ちゃんと話しておきたいことがある」
彼の言葉に、胸の奥がざわつく。何を言おうとしているのか、直感的にわかるからだ。
「私も……」
陽菜も小さく息をつき、胸の奥の想いを整理する。今まで言えなかった言葉、伝えたかった気持ち――すべて、この夜に込める覚悟を決めた。
桜並木の夜風が、二人の間を優しく通り抜ける。花びらが肩に触れるたび、心のざわめきが少しずつ現実感を帯びていく。
「やっぱり、この時間が終わるのは寂しい」
莉奈のつぶやきに、陽菜は小さく微笑む。
「でも、こうして話せるだけでも、幸せだよね」
言葉にした瞬間、胸の奥の緊張がわずかに解けるのを感じた。
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