第5章|すれ違う想い(後編)
カフェの空気は、沈黙とともに少し重くなっていた。
陽菜は手元のカップを握りしめ、言いたいことが喉の奥で絡まるのを感じる。
海翔も目を伏せ、指先でテーブルを軽く叩く。互いに言葉を探しているのに、どこかぎこちない。
「ねえ、陽菜……」
海翔が声をかける。その瞬間、陽菜の胸が跳ねる。言葉にしたい想いはあるのに、どうしても口に出せない。
「なんでもない、気にしないで」
思わず口から出た言葉に、自分でも驚く。海翔は少し肩をすくめ、微笑む。
「そう……ごめん」
二人の間に、言い淀む空気が残る。言葉にできない想いは、まだ心の中で揺れ続けている。
そのとき、莉奈が口を開く。
「二人とも、もう少し素直になろうよ。変に意地張ってる場合じゃないでしょ」
その言葉に、海翔と陽菜は互いに目を合わせる。少しだけ笑みがこぼれ、重かった空気が緩む。
「……わかった、頑張ってみる」
海翔の声には、少しの決意が混ざる。陽菜も小さく頷き、胸の奥の緊張が解けるのを感じた。
しかし、すれ違いは完全に解消されたわけではなかった。
二人はまだ言葉にできない感情を抱えながら、それぞれの道を歩んでいる。
それでも、互いの存在を確かめ合ったことで、小さな希望の光が差し込む。
「また会えるよね?」
陽菜の問いかけに、海翔は迷いながらも笑う。
「うん、絶対」
桜の花びらが風に舞い、二人の足元をくすぐる。夕暮れの光の中で、心の距離はまだ完全には埋まらないけれど、少しずつ近づき始めていた。
陽菜は深呼吸をして、肩の力を抜く。
「怖くても……進まなきゃ」
胸の奥で芽生えた小さな勇気が、未来への一歩を支えている。
すれ違いの痛みも、やがて互いの絆を強くする糧になると、陽菜は信じていた。
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