第5章|すれ違う想い(前編)
春の光は優しく街を照らしているのに、陽菜の胸の奥は少しざわついていた。
大学のオリエンテーション資料を整理している最中、スマホに届いた海翔からのメッセージを何度も見返す。文字だけのやり取りなのに、どこかぎこちなく、心が締め付けられる。
「ねえ、昨日はごめんね……ちょっと気まずくて」
メッセージにはそう書かれてあった。陽菜はため息をつき、画面を指でなぞる。
『気まずい』という言葉の裏に、海翔の不安が隠れているのはわかる。だけど、どう返せばいいのか迷う。
一方、海翔もスマホを握りしめ、返信を打ちかけては止める。
「ちゃんと伝えないと……でも、陽菜に嫌われたくない」
葛藤の中、文字はなかなか完成しない。思いを伝えられないもどかしさが、胸を締め付ける。
その日の午後、莉奈と奏が陽菜の部屋にやってきた。
「ねえ、陽菜。海翔、なんか元気ない気がするよ」
莉奈は心配そうに眉を寄せる。
「そうかな……私にはわからないけど」
陽菜は肩をすくめ、少しだけ視線を逸らす。友情と恋心の間で、気持ちの整理がつかない。
「きっと、二人とも素直になれないだけだよ」
奏の声は落ち着いていて、どこか優しい。
陽菜はうなずく。そう思う反面、自分の心が揺れる。海翔への気持ちは、言葉にできないまま、日々少しずつ膨らんでいく。
夕方、三人で駅前のカフェに入る。
「じゃあ、話そうか」
莉奈がそう切り出した瞬間、海翔から電話が入る。
「もしもし……あの、ちょっと話せる?」
陽菜は手が震えるのを感じつつ、うなずいた。
カフェの席に座ると、海翔の表情は少しこわばっている。
「昨日のこと、俺、変なこと言ったかもしれない……」
「変じゃなかったよ。ただ、気まずかっただけ」
陽菜は自然に答える。だが心の中では、言いたいことがたくさんあるのに、言葉にできない。
会話の途中、莉奈がちらりと陽菜を見て、口をつぐむ。
友情と恋心の狭間で、微妙な緊張が場を支配する。
海翔も視線を逸らし、指先でカップを回す。二人の間に流れる空気は、言葉以上に重く、切なさが混ざっている。
「ねえ、陽菜……」
海翔が再び声をかける。その声には、ほんのわずかな震えが混じる。陽菜は息をのむ。伝えたいことは山ほどあるのに、胸の奥に押し込めてしまう自分に気づく。
桜の香りが外から漂い、カフェの窓越しに春の光が差し込む。
二人の気持ちは近くにあるのに、なぜか互いに届かない。沈黙の中で、心のすれ違いだけが膨らんでいく。
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