第4章|それぞれの進路(後編)
夜になり、陽菜は部屋の明かりの下で、進学先の資料をもう一度見返していた。
心の奥には期待と不安が入り混じり、胸が締め付けられる。窓の外には、静かに散る桜の花びら。昨日までの笑顔が、今でも胸に残っていた。
「やっぱり、海翔とは離れるんだな……」
陽菜は小さく息をつく。頭の中で昨日の沈黙や、言えなかった言葉がぐるぐると回る。
同じころ、海翔は自転車に乗りながら、街の灯りを眺めていた。
「陽菜、大丈夫かな……俺はどうすればいいんだろう」
迷いながらも、少し前に進もうとする気持ちが芽生える。離れても、互いを思いやれる自分でいたい――そんな小さな覚悟だった。
莉奈は友人の奏と電話をしていた。
「私たち、みんなバラバラになるけど、大丈夫かな……」
「きっと大丈夫だよ。大事なのは、気持ちを忘れないこと」
電話越しに、少し安心した笑い声が響く。お互いの声だけで、心が落ち着く瞬間だった。
蓮は図書館から帰る途中、桜並木に差し掛かり、ふと立ち止まる。
「やっぱり……陽菜に言えなかったな」
彼は独り言をつぶやき、桜の花びらを見上げた。冷静に見える自分の中に、抑えきれない感情があることを実感する。
翌日、陽菜と海翔は駅前で偶然顔を合わせた。少し照れくさい笑顔。
「おはよう、海翔」
「おはよう、陽菜」
言葉は短くても、心の距離は昨日より少しだけ縮まった気がした。
「そろそろ、新しい生活が始まるね」
陽菜の声には、わずかに緊張と期待が混ざっている。海翔は黙って頷き、目を細める。
「うん……でも、また会えるよね?」
問いかける彼の瞳には、切なさと希望が同時に映る。陽菜は笑いながら、頷く。
「うん、絶対」
桜の花びらが風に舞い、二人の足元をそっとくすぐった。未来はまだ見えない。でも、それぞれの進路を歩き出す覚悟が、少しずつ形を持ち始めていた。
陽菜は深呼吸をして、街の明かりの中を歩き出す。
「怖いけど……頑張ろう」
小さな声は、夜の空気に溶けていく。胸の奥で芽生えた希望が、確かに前へ進む力になった。
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