第3章|帰り道の沈黙(後編)

歩き続けるうちに、陽菜の胸の奥はじんわりと熱を帯びていた。

言葉にできない想いが、沈黙の間に静かに膨らんでいく。風が吹くたび、桜の花びらが肩に触れ、胸をざわつかせた。


「そろそろ、ここで分かれる?」

海翔が少し俯きながら言う。足取りは重く、言葉は慎重だ。陽菜はうなずき、手をそっと握りしめる。手のひらが震える。


「うん……またね」

陽菜の声は小さく、でも確かに届くように出す。海翔は一瞬立ち止まり、目を伏せたあと、ゆっくり笑う。


「また……な」

それだけの言葉。だが、二人の間に何か確かなものが残った気がした。言えなかった本音はまだ胸にあるけれど、沈黙の中で互いの気持ちは伝わった。


莉奈と奏も、それぞれの歩調で進む。三人の間に、言葉にしなくても分かる空気が漂っている。

「……なんだか、変な感じだね」

莉奈が口を開く。笑っているけれど、声の端に寂しさが混ざる。

「うん……でも、悪くない」

陽菜は答え、少しだけ肩の力を抜く。心の奥に小さな安心が芽生えた。


駅前に差し掛かる頃、夕日が建物の影を長く落としていた。電車の音が遠くから聞こえる。

「じゃあ……またね」

海翔は改めて言った。陽菜も軽く笑い返す。手を振るその瞬間、胸にぽっかりと空いた穴を感じるけれど、同時に前に進む力も湧いてきた。


「次に会うときは、ちゃんと話せるかな……」

陽菜は心の中でつぶやく。昨日言えなかった言葉も、今日の沈黙も、いつか伝えられる日が来ると信じている。桜の花びらが最後に肩に触れ、光の中でふわりと舞った。


駅の改札をくぐり、海翔たちはそれぞれの方向へ歩いていく。陽菜は背筋を伸ばし、桜並木の道を振り返った。そこには、言葉にできなかった気持ちと、確かな友情、そしてほんの少しの恋心が、桜色の光に包まれて揺れていた。


歩き出す陽菜の足取りは、まだ重い。でも、少しずつ、前へ進む力を信じられる。

「私も、頑張らなきゃ」

小さく口にしたその言葉が、夕暮れの風に溶けていく。

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