第1章|桜の校門(後編)

校門を抜けると、いつもより広く感じる通学路に、桜の花びらが舞い散っていた。陽菜は歩きながら、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じる。後ろから海翔と莉奈の声が軽やかに追いかけてくるが、どこかぎこちない。


「ねえ、陽菜……本当に、もうすぐ会えなくなるんだね」

莉奈が小さな声でつぶやく。陽菜は足を止め、彼女の横顔を見た。笑顔の下に、ほんの少しの不安が隠れている。


「うん……でも、きっと大丈夫」

陽菜は自分に言い聞かせるように答えた。胸の奥がざわつくけれど、今は笑っていなければと思う。


「大丈夫って言えるほど、大人じゃないと思うけど」

海翔が少し投げやりに笑った。その声に、陽菜は胸がぎゅっと締め付けられる。言葉にならない気持ちが、風に流れる桜の花びらと一緒に揺れた。


歩き出すと、道の両脇に並ぶ桜の木が、ふわりと影を落とす。歩幅を合わせていた海翔の足が、少しずつ先へと進む。陽菜は追いかけながら、言いたいことが口の中で絡まるのを感じた。


「陽菜……卒業したら、会えなくなるのかな」

海翔の声は小さく、でも確かに震えていた。陽菜は答えに迷った。口に出す勇気も、背中を押す力もない。

代わりに、ただそっと笑った。「また会えるよ、きっと」


莉奈はそれを見て、すぐに目をそらす。小さなため息が漏れた。陽菜は彼女の手に軽く触れたくなる衝動を抑え、指先を握りしめる。


「ねえ、写真、ちゃんと現像してみんなに送ろうよ」

蓮が少し離れた位置から、無表情に提案した。だがその口調には、どこか優しさが混ざっている。陽菜は頷き、ふと蓮の視線を感じた。彼もまた、この時間の尊さを理解しているのだろう。


駅の改札前に着くと、現実の距離がはっきりと見えた。別々の電車に乗る瞬間が迫っている。誰もが言葉を探すが、なかなか見つからない。


「じゃあ……またね」

奏が小さく手を振る。陽菜も応じ、ぎこちなく微笑む。空気が一瞬止まり、桜の花びらが二人の間に舞い落ちた。


「うん、また……」

陽菜は小さくつぶやく。声がかすれ、胸が痛む。目の前の風景が、まるで時間を止めているかのように感じられた。


電車のベルが鳴る。海翔が小さく肩を落とし、莉奈が手を握りしめた。陽菜も深呼吸をして、歩き出す。桜の香りが、記憶の奥にじんわりと刻まれる。


別れはまだ終わっていない。けれど、今この瞬間を抱きしめることしかできない。桜色に染まった校門を背に、陽菜は未来への一歩を踏み出す――小さくても、確かな歩幅で。

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