王子ルート

第1話 不純物

クルニア歴1036年2月11日



『貴方は不幸にも亡くなりました。

それを私が拾い上げ、構成しました。スキルをつけて。

貴方に与えられたスキルは"防御"。

望むのなら、あらゆるモノから守ることが出来ます。

どこまでも、どこまでも。

この世界には、貴方と同じ境遇の方が6人います。

それでは、良き人生を』


◇◆◇◆◇◆


「ぐうっ……!」


急な頭痛に、響く声。

思わず壁に手をつき、呼吸を整える。


(前世の、記憶……か)


脳に直接刻まれる記憶。

それは31歳でこの世を去った、紛れもない"俺"の記憶。

だが。


(産まれた時なら喜べただろうが、今となっては……!)


そう。

この私、アルランド・メルシカール・R・アルビニオンにとっては不要でしかない。


それほどまでに、アルビニオン家の矜持があるのだ。

アルマンドラ大陸1の強国、アトマフ王国の王子としての矜持が。


帝王学、取り巻く環境、それまで培った全てが、記憶の侵食を許さない。


確かに性格は一致している。

それは本人だから、だろう。


だがそれでも、思考まで染まることは許さない。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁー……」


おそらくは神からの啓示。

追い出すことはできない。

それでも、折り合いをつけることはできる。


与えられた記憶とスキルは、私の糧にさせてもうとしよう。

それこそが、アトマフの繁栄に繋がる。

そう信じて。


◇◆◇◆◇◆


一息つくために王城のバルコニーへ移動する。

冷たい風が気持ちを落ち着かせてくれる。


「ふぅ……」


さて、この記憶・知識とどう向き合うのが一番良いか。


頭を回そうとしたその時。

室内から呼ぶ声がする。


振り向き視線をやると、2人、私のところへ向かっていた。


「兄上!」

「このような場所で如何なされましたかな?王子よ」


1人は腹違いの弟、オルフェン。

私とは6歳離れた11歳だが仲は良い。


そして、もう1人の男。


「そういえば、先程急に苦しまれたとか。次期国王として、お身体に不安があるなら相談いただきたいですな」


ジスカール・サンダーライツ宰相。

アトマフの政治を一手に引き受ける辣腕だが、どうにもその真意が掴めない。


現に、誰も居ないところで起きたあの出来事を、こうも言い当てる。


「ええっ!大丈夫なのですか、兄上!?」


「あぁ、問題ない。宰相も、忠言感謝する」


「とんでもない。こういった進言も臣下の務めですからな」


こいつは、こういう言い方しか出来んのか?

現国王である父クロディエンに対する忠誠はあるのだろうが、いかんせんそれ以外が不穏すぎる。


「兄上、僕は心配です!医師に見てもらったほうが……」


「そこまでのことじゃない。あまり大袈裟にしてくれるな」


そう言いながらオルフェンの頭をくしゃりと撫でる。

はにかむ笑顔はご婦人方が見たら、ノックアウトだろうな。


……いかん、思考が記憶に引っ張られているのか。


軽く咳払いし、調子を整える。


「宰相、一つ頼みがある」


「おや、なんでしょう」


弱みを見せる様で苦々しい思いはあるが、背に腹はかえられない。


「我がアトマフ以外で、変わったことがあればすぐに教えてくれないか」


「変わったこと……ですか」


「ああ。人でも文化でも娯楽でも何でもいい。今までに無かったような変わったことを、なんでもいいから集めて教えてくれ」


そうだ。

あの声は、私以外に"6人いる"と言った。

同じ境遇であれば、おそらくは転生者。

その者らと手を組むにせよ戦うにせよ、今のうちに情報は集めて損はない。


「一体何が目的か分かりかねますが、王子からの御用命です。謹んで承りましょう」


慇懃に礼をするジスカール。


「頼んだぞ、宰相」


「お任せください」


これで布石は打った。

内外で考えることは沢山だが、それでも未来のアトマフのために。


そんな私の思いとは裏腹に、心配そうな顔で見上げるオルフェンが、印象に残った。


◇◆◇◆◇◆


流通にも噂になるにも、その調査にも時間がかかるだろう。

一旦転生者のことは忘れよう。


宰相に頼んだあと、2人と別れ執務室へ向かう。


在籍している「王立リクナート学園」も冬季休講中なので父の手伝いをするためだ。


すれ違うメイドや執事達に挨拶を交わしながら、道のりを行く。


そんな時、手前から男がやってくる。

我が国を列強たらしめるアトマフ龍衛騎士団の団長、リカルド・オーグナーだ。


「おぉ、王子!探しましたぞ!」


「……私をか?」


一体何の用だろうか。

予定はなかったはずだが……


「そうですとも!ぜひ王子に頼みたいことがございましてな!」


竹を割ったようなハッキリした性格のリカルド。

声が大きいのが玉に瑕だが、騎士団長の性質上、仕方ないことだろう。


「なんだろうか?私に出来ることなら、快く承ろう」


「感謝いたします!近々他国へ向けた示威演習があるのですが、我が兵達に激励を賜りたいと思いましてな!

いかがでしょう!?」


「もうそんな時期だったか……。

ちょうど父上の所へ向かう途中だったんだ。

許可をいただけたら、喜んで激励させてもらおう」


「それはありがたい!では、私も共に向かうと致しましょう!」


リカルドはそう言い連れ立ってくる。


……そうだ。


「リカルド、今回の演習はどこに向けたものなのだ?」


「はっ!我がアトマフと国境を接しているミストレル王国が想定ですぞ!」

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