第3話 深夜3時に教授からLINEが来る理由、たぶん誰も知りたくない


 ――ピロン。


 その音で目が覚めた瞬間、俺はもう負けていた。


 枕元に置いたスマホが、深夜3時を告げる青白い光を放っている。


 嫌な予感しかしない。


 というか、この時間に通知が来る相手なんて、一人しかいない。


【八木教授】

「起きてるか?」


 起きてるわけねえだろ。

 起きてるわけねえんだけど。

 ――なぜか俺は、起きている。


田中「……(既読)」

 既読を付けた瞬間、俺の負けは確定した。


【八木教授】

「よし。では問題だ」


田中「いや、何が“よし”なんですか」


【八木教授】

「人はなぜ、深夜3時にどうでもいい通知を見ると腹が立つのか。答えよ」


田中「今まさにそれを送ってきてる本人が言う台詞じゃないですよね?」


【八木教授】

「なお、解答は次回」


田中「クソみてえな即席次回引きやめてください」


 布団から半分だけ起き上がり、天井を見つめる。


 俺は一体、何をやっているんだろう。


 大学生にもなって、

 深夜3時に教授とLINEで問題ごっこ。


 しかも内容は人生に一ミリも関係ない。


 ――ピロン。

【新海教授】

「八木、また田中を起こしたのか」


 あ、増えた。

 被害者が増えたんじゃなくて、加害者が二人になった。


田中「新海教授も起きてるんですか…」


【新海教授】

「起こされた」


【八木教授】

「ふ。人はな、起こされるから成長する」


田中「その理屈だと僕、もう人類最高峰レベルに成長してますよ」


【八木教授】

「ではヒントを出そう。深夜3時とは“境界”の時間だ」


田中「急にオカルト寄りになりましたね」


【新海教授】

「ちなみに私は、八木のその話を3年前にも聞いている」


田中「え、じゃあまだ続いてるんですか?」


【新海教授】

「終わった試しがない」


 この人たち、マジで何なんだ。


【八木教授】

「深夜3時、人は理性を失い、本音をさらけ出す」


田中「それで送るのが“問題だ”なんですか?」


【八木教授】

「そうだ。考える事は、人を裸にする」


田中「うわ、気持ち悪い方向に名言っぽくしないでください」


【新海教授】

「安心しろ田中。八木の言葉は大体、翌朝には本人も忘れている」


【八木教授】

「失敬な!私は忘れてなど――」

【八木教授】

「……あれ?何の話だっけ?」


田中「ほら」

 スマホを置き、もう一度布団に潜り込む。

 明日は普通に講義がある。

 普通じゃない教授がいるだけで。


【八木教授】

「では最後にもう一問」


田中「まだやるんですか」


【八木教授】

「なぜ人は、“もう寝よう”と思った瞬間に通知を見るのか?」


田中「……」

 俺は、既読を付けずにスマホを伏せた。

 その瞬間、

 ほんの少しだけ人生が前進した気がした。


 ――なお、30秒後に我慢できず既読を付けた。


 人は、そう簡単には成長しない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 01:00 予定は変更される可能性があります

深夜3時にLINEを送ってくる教授と、それに律儀に起きてしまう俺の人生がだいたい終わってる件 イミハ @imia3341

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る