第4話

 なんとか、声にするジュリアス。

「そうだよ。平民で、キミにいじめられていたカイルだよ」

「そ、そんなバカな? マルムはどうした?」

「ああ、マルムなんて金貸し商人は最初からいないよ。僕が化けていただけだから」


 そう説明しても、ジュリアスは理解できていないという顔をしている。


「まあ、そんなことはどうでもいいんだけどね」

 その時、部屋の扉が開いた。


「カイル様、夫人を連れきたで」

 そう言う声が聞こえる。ヘンな訛りがある女性の声だ。同時に黒装束に赤い帯を纏った女の子が現れる。東方の国では、『くのいち』と呼ばれているらしい。


「痛い! 何をするの――って、きゃあ!」

 くのいちに腕を掴まれならが部屋に入ってくると、部屋の荒れ方に卒倒しそうになっているご婦人――公爵夫人、エリザベートだ。もちろん、この宴にご招待してあげたのである。


「ありがとうカエデ。さて、これでメインディッシュはそろったね」

 僕がそう言っている間に、カエデと呼ばれたくのいちは公爵、夫人、ジュリアスを縄で縛りあげる。いやあ、さすがに仕事が早い!


「ま、待て! カネならいくらでもやる。だから助けてくれ」

 そんなことを言うオズワルドに僕はヤレヤレという顔を見せて――


「もちろん、カネもこの屋敷も、爵位ももらうよ。そして命もね。キミたちには何も残さない」

「ふ、ふざけるな! カイル! 平民がこんなことをしてタダで済むと思っているのか!」


 ジュリアスがこの場に及んでもそんなことを言うので、僕は心底ウンザリしてしまう。思わず殺したくなってしまうのだが、ここは我慢。だって、僕以上に彼らを恨んでいる人にその役を渡してあげなければならないのだから――


「それじゃよろしくね、ノワール」


 僕が公爵たちから離れると、代わりに漆黒のドレスを纏った赤毛の少女が前に出る。そして、仮面を外した。

 その時の公爵、夫人、ジュリアスの顔と言ったら、本当にマヌケだった。絵画にして僕の部屋に飾りたいくらいだ。


「イライザ……なのか?」

 公爵が喉から絞り出すようにそう言葉にすると、赤毛の少女はクスッと笑って――


「そう見えますか? もしそうなら、『イライザ・ヴァレンシュタイン』の霊が私に憑依してアナタたちを懲らしめてほしい……そう願っているのでしょうね」

 彼らに近づくノワール――


「ま、待て! どうするつもりだ、イライザ? 私たちは家族だぞ。娘なら、私たちを助けてくれ」

「助けて、ですって? 『イライザ』を見捨てたのは、アナタたち家族ですよ。なのに、逆の立場になったら、助けてもらえると思いましたか?」


 今まで見たことのない娘の形相。激しい怒りを見せるイライザに、三人は怯えた。そして――


「これは、ヴァレンシュタイン家の財産、名声を失墜させたことに対する、ご先祖様の無念」

 そう言って、ノワールは三人に左フックを見舞う。

「ぶふぁぁぁぁっ!」


「そして、これはそんなヴァレンシュタイン家を支えてくれながら、ただカネを産む道具としてしか見てくれなかった、分家、領民の恨み」

 そう言って、右アッパーを三人に食らわせる。

「ブグゥゥゥゥゥッ!」


「そして、これは家族のためと誠心誠意で尽くしてきたのに、アダで返された私の気持ち」

 そう言って、回し蹴りを彼らの顔に打ち込んだ!

「ぶべぇぇぇぇっ!」


「やめろ、もうやめてくれ……」

 そう言うオズワルドに「あら、まだ喋れましたか? 少し手加減しすぎましたね」とノワールは笑う。


「そこまでだ!」

 そう声をあげて、部屋に入って来たのは、衛兵たちだった。


 最後にゆっくりと大佐の階級章を肩に付けた軍人が現れた。王都衛兵総司令官、ガラム・ベル・ザカートである。


「総司令官! ハ、ハ、ハ。これで形勢逆転だ。この賊たちを逮捕してくれ」

 腫れた顔でなんとか声にするオズワルド。助かったと安堵の表情を見せる。


 しかし、衛兵は僕たちには目もくれず、公爵、夫人、ジュリアスを囲んだ。

「ど、どういうことだ?」


 そして、ベル・ザカート総司令は僕の前で跪くのだった。


「それでは、この逆賊たちを連れてまいります」

 ベル・ザカートの言葉に、「うん、よろしくね」と僕は伝える。


「ま、まさか、総司令まで買収していたのか?」

「ヒドイ言われ方だなあ。ガラムは最初からこっち側の人間だよ」

「――⁉」


 乗っ取った伯爵家に、フェルデランス・ファミリー初代ボスは信頼する少年を養子として送り込んだ。彼は苦学の末、軍部士官となる。そして衛兵トップにまで上り詰めた。それが、総司令官、ガラム・ベル・ザカートだったのだ。

 最後の望みまで潰えた公爵たちは、もはやもぬけの殻のような表情である。


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